- 紅野謙介・富岡幸一郎 編
- 協力=野間宏の会 (代表・黒井千次)
- 菊大上製 784ページ
ISBN-13: 9784865780512
刊行日: 2015/11
野間宏生誕100周年記念! 全体小説を構想した作家の全貌
『暗い絵』『青年の環』……
野間宏の「文学」が、現代を照らす。
大沢文夫/大庭みな子/小田実/木下順二/金石範/久野収/高銀/ 辻井喬/中村真一郎/埴谷雄高/針生一郎/三國連太郎/安岡章太郎 ほか
浅尾大輔/池田浩士/奥泉光/川村湊/菅野昭正/黒井千次/佐伯一麦/ 佐木隆三/島田雅彦/高橋源一郎/高村薫/中沢けい/中村文則/西川長夫/ 藤沢周/古井由吉/古川日出男/町田康/宮内勝典/モブ・ノリオ/リービ英雄 ほか
目次
まえがき 黒井千次
1 現代作家が読む野間宏
高村薫 野間宏の“表現”の力――『暗い絵』『崩解感覚』ほか初期短篇
高橋源一郎 3.11と野間宏
古川日出男 システムに抗する文学の可能性
浅尾大輔 言葉の断片、切れはしの尊厳――野間宏『日記』と敗戦
黒井千次 野間宏の時空
古井由吉 野間宏と戦後文学
島田雅彦 執拗と拘泥
町田康+富岡幸一郎 〈対談〉現在における野間文学
中村文則+富岡幸一郎 〈対談〉野間宏から現代文学へ
リービ英雄+富岡幸一郎 〈対談〉越境者と文学
藤沢 周+川村 湊 〈対談〉作家と青春――戦争のただ中で
◎[シンポジウム]「戦後文学」を問う
奥泉光+川崎賢子+宮内勝典+金石範+針生一郎 (司会)富岡幸一郎
◎[シンポジウム]文学よ、どこへ行く?
奥泉光+姜信子+佐伯一麦+塚原史 (司会)富岡幸一郎
2 同時代人が見た野間宏――回想と業績
安岡章太郎 野間さんのテンポ
久野収 野間君の憶い出
小田実 「戦後文学」とは何だったか、そして、何か
針生一郎 野間宏と小田実のあいだ
長谷川龍生 野間宏の詩的周辺
辻井喬 野間宏の詩と生涯
三枝和子 戦後・廃墟の文学としての野間宏
荒川修作 野、宏、野、間、間、野、宏、…
沖浦和光 日本における聖と賤――野間宏の足跡をたどって
中薗英助 AA作家会議の野間宏の思い出――伴走者の目を通して
中本信幸 「全体と共生」――野間宏は世界でどう読まれているか
佐木隆三 野間さんと狭山裁判
庭山英雄 野間宏と『狭山裁判』
藤山純一 野間宏と転向
西川長夫 戦後文学再考――9月11日のあとに
紅野謙介 『人民文学』と野間宏
◎コラム
木下順二 「戦後文学」を問う――「野間宏の会」の出発点
埴谷雄高 野間文学の本質追求を
藤山純一 野間宏の臨終
木下順二 無償性こそ創造を支える力
竹之内静雄 「詩人」竹内勝太郎と「三人」
野間光子 若い頃は、野間にそっぽを向いておりました
大沢文夫 野間宏さんの思い出
土方鐵 危機の世紀
大庭みな子 真砂町のころ
◎[鼎談]新しい時代の文学――21世紀にとって文学とは何か
高銀+辻井喬 (司会)黒井千次
◎[シンポジウム]野間宏のコスモロジー
中村真一郎+小田実+三國連太郎+中村桂子+富岡幸一郎+夏剛 (司会)紅野謙介
ブレット・ド・バリー 野間宏における詩と社会性、詩の社会性
ジェームズ・レイサイド 「暗い絵」から“Dark Pictures”へ
ギブソン松井佳子 野間宏からうけつぐべきもの――アメリカでの体験より
田辺厚子 スペイン語版『暗い絵』
劉徳有 野間氏を偲んで――遙か北京から
陳喜儒 執拗な探究者――野間宏の印象
張偉 野間宏の最後の手紙――親鸞とのつながりをめぐって
張石 個と全体の相剋――関連と対立の中で
高銀 野間宏先生の顔
大沢文夫 「生きものらしさ」とは何か――野間さんとの出会いと
中村桂子 生命科学から生命誌へ――野間さんに伝えたいこと
山田國廣 環境問題にとりくんだ野間さんの思い――野間宏の感度
川那部浩哉 自然法爾のこと――自然を創り得るのは自然だけ
3 野間宏主要作品論
塚原史 アヴァンギャルド野間宏
亀山郁夫 暗い想像力――野間宏とドストエフスキー
◎暗い絵
奥泉光 リアリズムの方法
山下実 地図と迷路――野間宏の風景
針生一郎 集団的主体性をめざして
石井洋二郎 野間宏と「顔」
◎顔の中の赤い月
中沢けい 『顔の中の赤い月』を読む
池田浩士 戦後文学で加害責任を初めて問うた
◎崩解感覚
川崎賢子 野間宏における官能性――『崩解感覚』を中心に
◎第三十六号
西川長夫 野間文学における悪人性――国家の悪・個人の悪
◎真空地帯
道浦母都子 戦争を伝える――野間宏『真空地帯』再読
◎さいころの空
富岡幸一郎 経済と肉体――『さいころの空』の今日性
◎わが塔はそこに立つ
菅野昭正 野間宏と文学変革
尾末奎司 野間宏と仏教――『わが塔はそこに立つ』を今読む
◎サルトル論
澤田直 日本におけるサルトル論争
海老坂武 野間宏とサルトル――芸術論をめぐって
◎青年の環
モブ・ノリオ 野間宏と大阪(関西)
日野範之 『青年の環』と大阪(西浜)――第二部第三章「皮の街」「歴史の臭気」
◎死体について
山下実 野間宏の後期短篇について
富岡幸一郎 最後の小説の可能性――『死体について』刊行にあたって
◎時空
大槻慎二 『時空』の時空
◎生々死々
高橋源一郎 野間宏と全体小説――その現代性について
◎完本 狭山裁判
大野晋 日本の裁判を知る大事な記録
木村康 現代の魔女裁判弾劾の書
稲葉三千男 「ドレフュス事件」と類似する「狭山事件」
日高六郎 「狭山裁判」と野間宏
梅沢利彦 「奈落を考える会」と野間宏
沖浦和光 差別と人間
久野収 野間宏と狭山裁判の思想的意味
佐木隆三 全体小説と『狭山裁判』
中山武敏 野間さんの遺志
針生一郎 巨人のライフワークの全貌を知る必要
土方鐵 野間さんの執筆動機
真継伸彦 野間宏さんを憶う
安岡章太郎 野間さんの言ったこと
◎作家の戦中日記
尾末奎司 全体小説作家生成のドラマ
辺見じゅん 野間宏の戦場記録をよむ――短歌・俳句を中心に
土方鐵 野間さんの俳句
黒井千次 体験の捉え方
日野範之 性と如来――野間さんの思春期の日記から
石田健夫 冬の時代の青春
木村幸雄 日記の中の中野重治と小林秀雄
山縣煕 或日の野間宏――その「身体」、芥川との比較を通して
〈あとがきにかえて〉
時代を予見する文学の力 富岡幸一郎
未完の作家・野間宏 紅野謙介
〈付録〉野間宏 略年譜
野間宏の会 二十年の歩み
関連情報
◎2015五年は、野間宏生誕百年に当たる。それを記念する企画として、このような形の書物がまとめられ、刊行されるのは、まことに意義深いことといわねばならない。なぜなら、それは単なる記念事業であるだけではなく、現代に対して突きつけられた声の集りである、と考えられるからに他ならない。
黒井千次
◎野間宏は一人の文学者の想像力や予見性によって、現代世界への予言者となったのではない。戦後文学者たちと(日本だけではなくサルトルなど海外の作家とも)問題意識を共有し、科学者や宗教家や歴史家などの他分野の人士とも深く連携しながら、現代と未来へとその眼差しを注ぎ続けてきた。その根底にあったのが、文学の力であり、言葉への信頼であり、いかに絶望的な状況でも執拗に語り続けることの勇気であった。生誕百年の記念として「野間宏の会」のこの厖大な証言が、ここにまとめられることの意義ははかり知れないのである。
富岡幸一郎
◎安易な洗練や完成を目指さなかった野間さんの生き方は、私たちを文学そのものへの問いに向けることになった。文学は、孤独と不安のうちにある人々に世界の見え方を変える言葉を投げ、喜びと驚きを与えるものであると同時に、不透明で未完成であることによって人間とその世界に対して終わりのない問いの前に立ち会わせるものでもある。本書に集められた言葉は、その問いに出くわした人々の対話の記録である。
紅野謙介