- 井上ゆかり著
- A5上製 352頁
ISBN-13: 9784865782653
刊行日: 2020/03
水俣病は終わっていない!
水俣病被害は、生物学的にも社会的にも濃縮し続ける。
1956年に公式発見された水俣病。その被害は、権力構造がからむ“社会的食物連鎖”のなかで、漁業や漁民に向かって濃縮され続けてきた。
現場で自ら調査・実証研究を重ねて実態を明らかにし、その実態を隠蔽し再生産し続ける権力構造をも分析する。水俣病に関する政策の問題点を突き、あるべき改革を提示する野心作。
――私にとって、水俣そして本書で取り上げている芦北町の漁村とそこに住む人々は、研究や調査の対象ではなく、水俣病事件研究の道行を共にする人々であり、先達であると感じられるようになっていた。「水俣学」は水俣病学ではないと、口酸っぱく言い続けられた原田正純先生をはじめとする先生方の言葉が実感としてわかるようになって、はじめてこの書を世に問う機会をいただいた。
――本書は、水俣学のひとつの学問的方法の到達点を示し世に問うものであり、原田先生の顰に倣えば、水俣病被害を生み出し続ける国・熊本県の責任を追及する告発の書である。
――本書で述べる現在の水俣の状況、国家権力に迎合する専門家はなにも水俣ばかりのことではない。沖縄辺野古基地建設、福島第一原発事故、相次ぐ災害時の国や県の対応、その時々に出てくる専門家を見るにつけ、今ほど水俣病を語らねばならない時はないように思う。
(本書「はじめに」より)
目次
いま、なぜ再び水俣病なのか
序 章 「実態的水俣病」に迫る方法論
一 本書の目的
二 研究方法と対象地域
三 従来の研究
四 本書の構成
第一章 「全村的協働組織」としての女島――統体制を中心に
一 漁村の成立過程
二 生業としての漁業
三 陸の孤島と揶揄された環境
第二章 全村的協働組織としての統体制の成立と展開
一 統体制と姻戚関係
二 漁撈習俗
三 海とともに生きる人々の食
四 漁撈活動と女性
第三章 水俣市漁協と旧湯浦町漁協が被った漁業被害の性格
一 不知火海沿岸漁協の患者隠しの地域的展開
二 漁民抗議行動――不知火海沿岸漁民と旧湯浦町漁協
第四章 女島の漁民被害の存在形態
一 第一号患者から一〇年間の沈黙
二 医学的調査と社会学的調査でみる漁民被害の実態
第五章 暴露と権力的水俣病が示唆する認定基準のゆがみ
一 松島義一調査報告に関する考察
二 沖行政区の暴露と権力的水俣病の検討
三 臍帯水銀値と臨床症状
終章 濃縮される漁村の水俣病被害
一 社会的食物連鎖と水俣病被害の濃縮
二 総括――水俣病政策への提言
三 水俣学方法論の提示
長いあとがきにかえて
謝辞
用語解説
引用・参考文献
図表一覧
【著者紹介】
●井上ゆかり(いのうえ・ゆかり)
1973年熊本県生まれ。熊本学園大学水俣学研究センター研究員、同大学社会福祉学部非常勤講師。看護専門学校から病院勤務を経て、2016年、熊本学園大学大学院社会福祉学研究科社会福祉学専攻博士課程修了。博士(社会福祉学)。著書に「権力に被害を叫ぶことからはじまる水俣病 岩本美智代解題」(『いま何が問われているか――水俣病の歴史と現在』くんぷる、2017年12月所収)他。