- エレナ・ポニアトウスカ著、オクタビオ・パス=序
- 北條ゆかり訳
- 四六上製 528頁
ISBN-13: 9784894344723
刊行日: 2005/09
1968年10月2日、その日メキシコで何があったのか?
1968年10月2日に発生した学生デモの暴力的鎮圧「トラテロルコ事件」。
死者250名以上を出し、メキシコ現代史の分水嶺となったこの事件の、渦中にあった人びとの証言を丹念にコラージュし、メキシコの民の魂の最深部を見事に表現した、ルポルタージュと文学を越境する著者の代表作、ついに完訳。
■メキシコにとって、1968年にはたったひとつの名前しかない。「トラテロルコの夜」という名しか。
この悲劇は多くのメキシコ人の生涯を分断することとなった。10月2日以前と以後とに。1968年は、血と銃口をもって、我々に消すことのできない痕を残した。1968年は全世界で若者の不満が爆発した年である。他にも多くの学生運動があったが、メキシコのそれほど暴力に見舞われた例はよそにない。集中砲火が戦闘さながら29分もの間続き、人生の途についたばかりの若者たちが命を奪われたのである。
若者を殺すことは、キボウヲコロスことである。
目次
日本の読者へ エレナ・ポニアトウスカ
英語版『トラテロルコの夜』序文 オクタビオ・パス
第Ⅰ部 街頭に打って出る 1968.7-10
第Ⅱ部 トラテロルコの夜 1968.10.2
事件の歴史記述――学生によるオーラル・ヒストリーの証言事実に基づく――
訳注
〈事件後30年に寄せて〉汚辱の歴史 エレナ・ポニアトウスカ
訳者あとがき
[附]メキシコ近現代史年表(1909-2000)
1968年の学生運動と、それを突如として終わらせた、政府による凄惨な弾圧――「トラテロルコ事件」――は、メキシコの人びとを深く動揺させた。その結果生じた政治的、社会的、倫理的危機はいまだに解かれてはいない。エレナ・ポニアトウスカの『トラテロルコの夜』は、これらのできごとを解釈しようとしたのではない。理論あるいは仮説という類のものをはるかに越える何かである。すなわち、並外れた取材の成果、あるいは筆者が呼ぶように「歴史の目撃者が発した声」の「コラージュ」なのである。一編の歴史記述(クロニクル)――それも、歴史が凍りつき、生の言葉が文章化される前に、我々に歴史を示してくれるクロニクルである。
……オクタビオ・パス
【著者紹介】
●エレナ・ポニアトウスカ(Elena Poniatowska)
ポーランド最後の国王の末裔として、1932年パリに生まれ、42年母方の祖母の待つメキシコへ移住。53年ジャーナリズムの道に入り、以来半世紀余、独特のインタビューとルポルタージュの手法を通じて、あるいはノンフィクションとフィクションの間を自由に往還しながら、現代メキシコの知的文化と大衆文化双方の価値と問題を余すところなく描き出してきた。68年の学生運動弾圧事件を当事者たちが語る『トラテロルコの夜』は、ポニアトウスカの名を国際的に知らしめたクロニカ(ノンフィクション)である。79年にメキシコで女性初の「全国ジャーナリズム賞」を受賞。その作品は、社会のマイノリティの声を掬い上げることに徹し、不公正を断じて許さない精神に貫かれている。
著書に『生き抜いて』(1969.マサトラン賞受賞)『沈黙は強し』(1980)『何も、誰も』(1985)『ティニシマ』(1992.マサトラン賞受賞)『天空の牡牛』(2001.アルファグアラ賞)他多数(いずれも未邦訳)。