戦後行政の構造とディレンマ――予防接種行政の変遷

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  • 手塚洋輔 著
  • 四六上製 304頁
    ISBN-13: 9784894347311
    刊行日: 2010/2

「行政の萎縮」という逆説はなぜ生じるのか?

保護者、医療関係者、行政関係者、メディア関係者、必読!
占領期に由来する強力な予防接種行政はなぜ「国民任せ」というほど弱体化したのか? 安易な行政理解に基づく「小さな政府」論、「行政改革」論は「行政の責任分担の縮小」という逆説をもたらしかねない。現代の官僚制を捉える最重要の視角。


目次

序 章 不確実性下の行政活動


1 はじめに

予防接種の宿命 ──2つの文章と2つのリスク / 不確実性下の行政活動に対する2つの視座 / 本書の課題 / 既存研究との比較 / 本書の構成

2 分析視角 ──行政の過誤と責任

作為過誤と不作為過誤 / 過誤回避のディレンマ / 責任分担による非難回避 / 抵抗の例外的許容による制度安定 / 過誤の政治化による責任分担の変動 / 過誤の増幅にかかる3つの経路 / 過誤回避と制度変化

3 事例としての予防接種行政

予防接種が内包する不確実性と過誤回避の問題 / 予防接種における責任分担 ──強制か任意か

4 予防接種に関係する組織・対象者

制度管理機関 ──厚生省による接種対象選定と接種体制整備 / 基準設定機関 ──審議会による政策根拠の確保 / 実施機関 ──医師による接種行為とその責任 / 対象者 ──自発的服従への誘導


第1章 戦後予防接種制度の起点 ─不作為過誤回避指向の選択 (1945―1950)


1 予防接種法成立の背景

予防接種のはじまり ──種痘 / 強制種痘制度の確立 ──種痘法 / 終戦直後の衛生状態とGHQ / 厚生省の再編と医系技官 / 予防衛生研究所の設立 / 地方衛生行政機関の拡充 ──県衛生部と保健所 / GHQによる予防接種の全国展開 ──種痘と腸パラチフス

2 予防接種法の制定と特徴

予防接種法に対するGHQの意向と確執 / 予防接種法の受容 ──「文化国家」 への道程 / 対象ワクチンの広汎性と法律による制約 / 作為過誤回避としての国家検定 / 集団接種による接種率の確保 / 接種義務と形式的な罰則規定 / 実施状況把握の限界 / 国・自治体・個人の費用分担

3 制度初期における作為過誤への対応

「特異体質」 としての処理 / 京都ジフテリア予防接種禍事件の発生経過 / 事故原因の究明 / 責任追及における4つの方向性 / 補償問題と訴訟回避

小 括


第2章 予防接種行政の確立 ─自発的服従の確保 (1950―1967)


1 接種対象選定における 「政治」 と 「科学」  ──諮問機関の制度化と決定の 「科学」 化

BCG論争と 「政治」 的決着 / 伝染病予防調査会の設置とアジアかぜ / 昭和30年代前半の公衆衛生局の変動と予防接種制度の再検討

2 ポリオワクチンをめぐる過誤回避の対立

ポリオをめぐる問題背景 / 防接種の過剰な需要 / 緊急対策要綱によるソークワクチン勧奨接種の開始 / ポリオ予防接種の法定化 / ソークワクチンの限界 / 生ワクチンをめぐる議論状況 / メディアによる不作為過誤認識の増幅 / 「実験投与」 という名目 / 生ワクチンの緊急輸入をめぐる不作為過誤回避と作為過誤回避の対立 / 生ワクチンへの転換

3 強制集団接種の内実

集団接種の不作為過誤回避指向 ──予診と人数制限の無制約性 / 至上命題としての接種率向上と接種ルールの逸脱 / 法定外接種の実質定期接種化/勧奨接種から特別対策へ ──インフルエンザと日本脳炎 / 混合ワクチン

4 自発的服従への方策

接種費用の無料化 / 学校における集団接種 / 母親への啓発手段 ──育児書と乳幼児検診

小 括


第3章 予防接種をめぐる構造変化 ─作為過誤の顕在化と公的責任の拡大 (1967―1976)


1 副作用問題の社会的発見

厚生省による隠蔽 / 被害者運動の勃興 / 行政と医師との責任分担 / 医師の責任極小化と協定締結

2 予防接種見直しの動き

1960年代の厚生省 / 腸パラチフス予防接種廃止の過程 / 伝染病予防調査会による再検討と副作用の実態調査の開始

3 救済措置の創設とその機能

種痘禍問題の構図 / 種痘禍の対応過程における作為過誤の是認 / 公害と政府の救済制度 / 被害者救済制度の創設 / 被害者救済制度の運用と役割

4 過誤回避の拮抗

集団接種における作為過誤回避指向の出現 / 医師会による免責要請運動 / 強制種痘存廃問題 / DPT接種中止問題と個別接種推進への転換

5 法改正までの長い道程

法改正の停滞 / 法改正の再開 / 予防接種の法的位置づけの変更 / 副作用の責任分担 ──被害者救済制度と医師の免責保証

小 括


第4章 強制・集団接種体制の融解 ─作為過誤の再定義と公的責任の縮小 (1976―現在)


1 科学的言説の多元化と保護者同意接種の開始  ──インフルエンザ

インフルエンザ学童集団接種 / 前橋市における予防接種の中止 / 諮問機関による反論と同意方式への転換 / 接種率の急降下

2 同意接種による決定回避の構造 ──MMR副作用への対応

MMRワクチン導入経緯 / 副作用評価の変転 / 保護者同意方式による決定回避 / 使用中止決定の要因

3 予防接種禍訴訟

東京集団訴訟の経緯 / 東京高裁の判決内容 ──作為過誤の回避義務 / 上告断念

4 1994年改正 ──規制から条件整備へ

予防接種政策の方針転換 / 接種義務の緩和 / 安全な予防接種実施体制の整備 / 接種対象選定に関する制度改正

5 政策転換後における予防接種行政の現状

個別接種・勧奨接種体制における責任分担と接種率確保 / 集団接種における作為過誤回避指向 / 副作用対応のマニュアル化 / 積極的勧奨の差し控え

小 括


終 章 まとめと展望


1 予防接種行政における過誤回避と責任分担

過誤回避の指向性を規定する過誤の定義付け / 作為過誤の定義付けからみた3つの時期区分 / 制度変化と責任分担 ──公的責任領域の境界

2 過誤回避のディレンマからみる行政の構造問題

過誤回避のディレンマへの対処手法 ──不可視化・希釈化・分散化 / 過誤回避と責任分担からみた行政の逆説


あとがき
図表一覧
索 引

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