花の億土へ

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  • 石牟礼道子 著
  • B6変上製 240頁
    ISBN-13: 9784894349605
    刊行日: 2014/3

最後のメッセージ――絶望の先の“希望”

東日本大震災を挟む足かけ二年にわたり石牟礼道子が語り下ろした、解体と創成の時代への渾身のメッセージ。
映画『花の億土へ』収録時の全テキストを再構成・編集した決定版。

闇の中に
草の小径が見える。
その小径の
向こうのほうに
花が一輪見えている。


目次

天の病む
 Ⅰ
 ダムの底に沈んだ村
 残夢童女
 天に向かって立つ
 美学にしなければ身がもたぬ
 天上へのあこがれ
 魂をつなぎ止める守り神

 Ⅱ
 はびらになって抜け出す魂
 幻楽始終奏団との対話
 「生命たちの原初」の交響楽
 次の世紀のための原野
 「わたくしさまの しゃれこうべ」

 Ⅲ
 「水俣病を全部私たちが背負うていきます」
 東京に日本という国はなかった
 もだえ神様
 口封じと名目つくり
 政府も行政も徹底的に調べない

 Ⅳ
 菩薩の目で海を見る人たち
 海と陸の境、渚の発見
 「とんとん」という村の記憶
 山の神様と竜神様
 陸と海をつなぐ海霊の宮
 次の世の絶対的な幸せへのあこがれ
 生類の親様のおられるところ
 お能に様式化された原初の姿
 新しい夢を見る力

毒死列島
 Ⅰ
 妖怪たちの大にぎわい
 海、川の生命に呼びかける
 コンクリートが文明という思い違い
 毒を隠しつづける政府
 「叱られしこともありしが草の露」
 徳を取り戻せるか
 予想できなかった清子ちゃんのことば

 Ⅱ
 東北の方がたへの感動
 卒塔婆の都市、東京
 一国の文明の絶滅と創成とが同時に来た
 弱者たちは現代の天使
 祈りを捨ててきた近代
 なんでも神様になる
 民衆がたくわえてきた祈りの力
 祈りが絶えたわけではない

 Ⅲ
 二十世紀を燃やしてしまおう
 島原の乱のこと
 天草四郎と十万億土
 「パライソの寺にまいろやな」
 美と悲しみは背中合わせに

花あかり
 Ⅰ
 鬼塚雄治さんの日記
 一日一日を生きる切実さ
 人類が体験したことのない毒
 「漁民たちは水俣をつぶすつもりか」
 「太かベートーヴェンば買うてきたぞ」
 生命と生命の出会いが失われた
 徳や義を失ってゆく現代

 Ⅱ
 無限に延びる数への恐れ
 松太郎様の道路道楽
 知りえないことからの虚無感
 大所帯で支えた道づくり
 書くことであらゆる出来事がつながる
 あらゆる毒物について調べてほしい
 「お米様」への祈り
 「悶えてなりと加勢する」
 死んだ後の世に希望がある
 名もわからぬ土まんじゅうへの鎮魂
 遠い花あかりを目ざして

編集後記

関連情報

 私が考えているのは、人間だけの歴史ではないんです。「十万億土」ということばがあります。仏教からきたことばで、十万億土へ行くとか、十万億土には極楽もあるし、地獄もある。いま私たちが住んでいる地球を人間が意識する。私も意識はするけれど、地球といえばなんだかコツンとしたような感じがして。あらゆる生きものたちが、草木も、獣たちも、虫たちも含めて、呼吸しあっている……。
 天草というのは、「あま」は「天」という字で、それに草と書く。私のイメージでは、それは天の億土で、人間や生きものが棲みはじめる前に、天というのがまずあって、それは高い空でもあるけれども、そこから億土が生まれると。最初は生命がなかったところに生命が生まれた。十万億土の中の天の億土のようなものがこの宇宙に生まれた、その最初の島である。それで私のご先祖は、草の親のようなものだったろうと思っている。
(本書より)

著者紹介

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