穐本洋哉
A5上製 336ページ
ISBN-13: 9784865780192
刊行日: 2015/03
日本的気候風土に適した農業はどのように発展してきたか?
人口に比べて狭隘な国土をもつ日本では、灌漑設備の整備を前提とし、小農家族経営による、狭い耕地に肥料や労働を多く投入する“日本型集約農業”が江戸時代中・後期に成立し、他のアジア諸国を大きく上回る生産性を達成した。明治政府の勧農政策の要ともなったこの「集約農業」の生成と、明治期の発展のメカニズムを示し、近代日本農業の「発展の論理」を明らかにする。
目次
まえがき
序章 近代農業成立前史――藩政時代末期防長地方の稲作
はじめに
灌漑整備
集約農法
多肥・多労型稲作
品種の改良・普及
2毛作化と栽培・肥培技術
結語
第1章 移行時代の西南暖地と北地の稲作――品種変遷に見るわが国稲作の2つの発展方向
はじめに
近代における暖地稲品種の変遷
史料『沿革』に見る明治38年の山口県地方の稲品種
山口県「稲作試験成績表」が示す移行時代の稲品種
稲作の北進と北地秋田県地方における稲品種の変遷
明治10年代初頭における稲品種
明治末年~大正期における品種動向
[補節]近世における羽後地方の稲品種の動向
結語
第2章 農業水利秩序の展開――新潟県蒲原平野に見る慣行的水利の近代的再編
はじめに
農業水利慣行
白根郷地区
西蒲原地区の水利慣行
慣行的水利秩序の再編
耕地整理事業に見る慣行的水利秩序の近代的再編
結語
第3章 「慣行的農業」の経済分析――品種と水利の経済学
はじめに
日本型「集約農業」のマクロ分析
食糧増産と農業生産の「集約化」
収穫逓減と農法および土地の改良
品種と水利のミクロ経済学
品種改良の技術的特質と規模の中立性
灌漑投資と規模の経済性
慣行的農業の“合理性”
農事慣行に見る経験的合理性
水利慣行
慣行的農業の動揺
結語
第4章 試験場時代の稲――戦前期集約型稲作到達時点の稲品種
はじめに
『耕種要綱』(昭和11年)に見る戦前期集約型稲作完成時の稲品種
『耕種要綱』に見る北地の稲品種
秋田県の稲品種
新潟県の稲品種
山形県の民間育種事業と試験場
結語
第5章 在来農法と農会制度――在来農業再編と農会の役割
はじめに
在来農法と地方農会の設立
農会設立の機運
地方農会の設立事例
農会組織、活動の事例分析:愛知県東春日井郡農会
在来農法の改良・普及と農会
農会の系統組織化:在来農法の改良と普及組織の国家的再編
農会予算と農会活動
結語
第6章 近代朝鮮半島の稲作と日本の農業近代化政策――日本型集約農業の“再版”
はじめに
朝鮮在来稲品種の特性
朝鮮農業の特質
要素賦存と農法
朝鮮農民と集約農法
日本型集約農法の再版:制度変革
勧業模範場の設立:品種普及制度の確立
朝鮮農会の組織化:農法の刷新
水利組織の形成:水利施設の改善と管理・運営
結語
[補節]資料『朝鮮稲品種一覧』(京畿道)に見る朝鮮在来稲
京畿道における在来稲一覧
稲名に見る京畿道在来稲の特徴
主要品種の登場と品種群=系統種成立への動き
その他特性に見る京畿道の朝鮮在来稲
結語
第7章 近代日本地主制再考――稲作技術史論の立場から
はじめに
日本型集約稲作と「寄生地主制」
日本稲作小史
「集約農業」と「規模の中立性」(集約農法)
「集約農業」と「規模の経済性」(田地基盤整備)
小作料の理論的吟味
小作料に関する実証的考察
小作料(率)水準
「高率」小作料と「差額地代」
過剰就業下の小作料水準
小作料率の変化
結語
第8章 近代日本の農業成長率再考
はじめに
「1920年代成長ポテンシャル消尽説」の問題点
検証
検証1 成長率の各局面変化と土地生産性(反当収量)の長期推移
検証2 農業成長率の地域格差と土地改良、品種改良の地域性
結語
あとがき
グラフ・図・表一覧
関連情報
日本の稲作の歴史は、稲の東進、北進の歴史であった。近代期においてそれが一気に加速化し、東北地方北端にまで到達したのは、この時期の治水・水利の急速な整備と品種改良の成果によるところが大きかったが、それも、二〇〇〇年にも及ぶ長い稲作発展史の一コマにすぎなかったと言えよう。
この近代期を含め、稲作発展の背景には、基本的に、それを促す人口増加の圧力があったというのが本書の主張である。すなわち、所与の土地賦存量の下では、絶え間ない土地の効率=集約利用が必然化するというものである。このメカニズムこそが、稲作農業の発展論理である。
(「おわりに」より)
●穐本洋哉(あきもと・ひろや)
1944年8月 東京都に生まれる
1967年3月 慶應義塾大学経済学部卒業
1969年3月 同大学経済学研究科修士課程修了
1972年3月 同大学経済学研究科博士課程修了
1976年4月 東洋大学経済学部専任講師就任
1978年4月 同大学経済学部助教授就任
1979年3月 経済学博士学位授与(慶応義塾大学経済学研究科)
1985年4月 東洋大学経済学部教授就任、現在に至る
社会経済史学会会員
東洋大学東洋学研究所所員
■業績■
著書(単著)
『前工業化時代の経済――「防長風土注進案」による数量的接近』(ミネルヴァ書房、1987年)
著書(共著)
『数量経済史論集1 日本経済の発展』(日本経済新聞社、1976年)
『新しい江戸時代史像を求めて』(東洋経済新報社、1977年)
『数量経済史論集2 近代移行期の日本経済』(日本経済新聞社、1979年)
『徳川社会からの展望』(同文館、1989年)
『日本経済の200年 西川俊作教授還暦記念論集』(日本評論社、1996年)
訳書
S.ハンレイ・K.ヤマムラ『前工業化期日本の経済と人口』共訳(ミネルヴァ書房、1982年)
D.ノース・R.トマス『西欧世界の勃興』共訳(ミネルヴァ書房、新装版2014年)