- エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ+アンドレ・ビュルギエール監修
- エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ編 浜名優美監訳
- A5上製 464ページ
ISBN-13: 9784865780307
刊行日: 2015/06
人口統計学、交通/貨幣、産業化などマテリアリスト(物質的歴史)の時代。
ル=ロワ=ラデュリ、ビュルギエール、リグリィらの婚姻・産児減少、ペスト・血液型、貨幣・交通、毛織物産業・産業化と近代化、ガレー船漕役囚など、物質的事象に関心を向けた論文から、神話学とイデオロギーに関わる、20世紀末『アナール』への橋渡しとなる論文を収録。
関連情報
1968年から1988年までの年月は、アナール派が比較的「マテリアリスト」だった時期である〔本巻収録論文は1969-79年発表のものである〕。とはいえ、この学派が哲学的ないし宗教的(あるいはむしろ反宗教的)な意味で「マテリアリスト」(唯物論的)だったわけではない。そうではなく、「通常の」精神構造やイデオロギー――たとえそれが革命的なものであれ――の問題よりも、人口統計学、歴史生物学、経済学、犯罪史などによりいっそう強い関心を向けていたという意味で、「マテリアリスト」(物質的)と言うのである。
本巻の選択は、この傾向を反映したものである。むろん、ここで取りあげることのできない重要な論考も数多く存在する。
(本書第Ⅳ巻序文より)
■フランスの道路網の全体で実現した平均スピードの絶えざる上昇は、20年ほど前から人びとが目にしてきた通りだ。パリ・マルセイユ間の例は一目瞭然だろう。これら二つの都市をひといきに移動するには、現在では中型排気量の自動車のハンドルを握って、実際に6時間か7時間を費やせば十分だ。すなわちそれは最速の列車とほぼ同じ所要時間ということになる。ところがパリ・マルセイユ間の道程は、高速道路A6〔パリ南東部・リヨン間、1971年全線開通〕およびA7〔リヨン・マルセイユ間、1969年全線開通〕がまだフランスのドライバーたちの夢の中にしか存在していなかった頃には、数時間余分に必要だった。
■絶えず新たな進歩に気をそそられてきたこの特別な路線の利用者は、これほどまで重要性が跳ね上がったことに気がついていただろうか。おそらく、通りなれた道路に年々改良が加えられても当たり前のように利用してきた過去数世紀の旅行者よりはわずかに気づいているかもしれない。というのも現在私たちが体験している変化の時代は、フランスの道路交通の歴史の中ではまったくの例外というわけではないからだ。現在の変化は長い進化の中の新たな段階でしかないが、その進化が真の意味で始まったと言えるのは、いくつか限定的な試みが行なわれたのちの18世紀の半ばのことなのだ。急転直下の幕開け、そう言わなければならないだろう。1780年には乗合馬車が、それ以前の数年と比べて倍の速度で滑らかに主要王国道の上を走ってゆくのを人びとは目にしたのではないか。たしかに当時は時間ではなく日数で旅程を計算したが、歴史的な文脈の中に置き直せば、当時の車道に成し遂げられた進歩は、現代の最新の高速道路が私たちにもたらした進歩と比べても何ら遜色ない。
■私たちの目的は、18世紀の道路建設の巨額な支出に関する行政および財政的側面についてすでに詳細に論じた多くの研究に、ここで追加的な寄与をもたらすことにあるのではない。単に18世紀の道路建設の概略を示しておきたいのだ。そのあとで、本当の意味で現在までほとんど言及されてこなかったと思われる18世紀の道路建設の成果のうちの二点、つまり新たな道路網の地図製作法と旅行者用乗合馬車の運行速度の向上を強調することにある。
(第9章より)
【監修者紹介】
エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ(Emmanuel Le Roy Ladurie)
1929年生。アナール派の代表的な歴史家。名門のリセ、アンリ4世校を終えたのち、高等師範学校に進んで歴史学を学ぶ。1955年、南フランスのモンプリエ大学に赴任し、近世、近代フランス史を研究、講義。高等研究院第6部門研究指導教授を経て、1973年、ブローデルの後任としてコレージュ・ド・フランスに迎えられ、現在、同名誉教授、フランス学士院会員、元フランス国立図書館長。著書に『ジャスミンの魔女――南フランスの女性と呪術』(1983年、邦訳新評論)、『新しい歴史――歴史人類学への道』『気候の歴史』(1983年、ともに邦訳藤原書店)、『モンタイユー――ピレネーの村』(1974年、邦訳刀水書房)、『ラングドックの歴史』(1966年、邦訳白水社)など。
アンドレ・ビュルギエール(Andre Burguiere)
1938年生。主な関心は農民の世界。社会科学高等研究院教授。著書に『風景と農民――10世紀から20世紀までの田舎の歴史』(1991年)、『家族の歴史』(セガレンほかと共同編集、1986年)、『フランス史』(全4巻、ルヴェルと共同編集、1989-1994年)、邦訳論文としては「フランスにおける結婚儀礼――教会の慣習と民衆の慣習」(新版『叢書・歴史を拓く――『アナール』論文選2家の歴史社会学』藤原書店)「60年代の集団的調査――プロゼヴェットでの学際的調査」(関西学院大学先端社会研究所『先端社会研究』第4号)など。
【監訳者紹介】
浜名優美(はまな・まさみ)
1947年生。早稲田大学大学院文学研究科フランス文学専攻博士課程単位取得満期退学。南山大学総合政策学部教授・南山学園理事。専攻は現代文明論・フランス思想。著書『ブローデル『地中海』入門』(藤原書店、2000年)。訳書にブローデル『地中海』Ⅰ―Ⅴ(藤原書店、1991-95年)など多数。
【編者紹介】
エマニュエル・ル=ロワ=ラデュリ 監修者紹介参照