アフメト・ハムディ・タンプナル
和久井路子 訳
四六上製 576ページ
ISBN-13: 9784865780420
刊行日: 2015/09
「イスタンブルを描いた最も偉大な小説。」 ――オルハン・パムク(ノーベル文学賞作家)
「トルコ近代文学の父」の代表作、ついに完訳!
第二次世界大戦のまさに前夜、東と西が出会う都市イスタンブルを背景として、西洋化とオスマン朝の伝統文化への郷愁との狭間で引き裂かれるトルコの知識層青年の姿を、甘美な恋愛劇と重ねて描きだした傑作長篇。
「僕たちはお互いを愛しているのだろうか、それともボスフォラスを愛しているのだろうか?」
トルコ共和国建国から約十五年、第二次世界大戦勃発前夜におけるイスタンブルの知識層青年たちの物語。
主人公ミュムタズは幼い頃に両親を相次いで喪い、以後は、歳の離れた従兄であるイヒサンに引き取られる。ミュムタズは、歴史家であり東西の文化に造詣の深いイヒサンを精神面でも父とし、長ずるにつれてオスマン朝時代の伝統文化(文学、芸術、骨董)を深く愛するようになる。研究者となったミュムタズは、博士論文を書き上げたのち、ボスフォラス海峡を渡るフェリーで、夫と別れたばかりのヌーランと運命的に出会う。意気投合した二人は、イスタンブルの街並みに伝統の美しさを訪ね歩くなかで愛を深め、ついに結婚の意思を固めるが……。
甘美なラブストーリーと伝統文化の美と神秘、そしてイスタンブルというトポスの魅力が渾然として描きだされた不朽の名作。
関連情報
■イスタンブルを描いた最も偉大な小説 ――オルハン・パムク(ノーベル賞作家)
■この圧倒的傑作は、故郷イスタンブルと人間性に関する愛の物語である。アメリカの読者は、これほどの絶妙な作品を読むのになぜこんなに待たされたのかと思わずにはいられないだろう。 ――『パブリッシャーズ・ウィークリー』
■ほとんど独力でトルコの近代文学を生み出した人物によるこの作品は、過去と現在、伝統と近代、東と西との狭間にとらわれたかに見える、一九三〇年代イスタンブルの西洋化された都会的知識人たちが、抜きがたい憂鬱を抱えつつこの都市を漂流する姿を描く ――レザー・アスラン(作家、宗教学者)
■これはトルコの『ユリシーズ』だ ――ジョシュア・コーエン(作家)
■これは傑作だ。甘美で探究的で憂愁に満ちた叙事詩である。物語そのものと、驚くほど個性的で多様な登場人物たちとともに、イスタンブルという舞台とその色彩を描いた作品である。恋愛や文化的転換を描いた二十世紀の文学作品の中でも傑出している ――リチャード・イーダー(ピュリツァー賞批評家)
●アフメト・ハムディ・タンプナル(Ahmet Hamdi Tanp?nar, 1901-62)
20世紀トルコ文学の最高峰に位置する作家、詩人。1901年にイスタンブルに生まれる。判事をしていた父親の職業柄、子ども時代、アナトリアおよび当時はオスマン帝国領内にあったイラクやシリアの各地を転々とした。1919年にイスタンブル大学文学部に入り、当時大詩人として知られていたヤヒャ・ケマルに師事し、大いに影響される。卒業後、10年ほどエルズルムやコンヤなどで高校の文学教師を務めた。1933年イスタンブルの芸術アカデミーで、美学と神話の講座に任命され、1939年には、イスタンブル大学文学部の教授に任命される。1942年から4年間マラティヤ選出の国会議員をつとめる。民族主義路線ではあるものの、特定のグループに属することを嫌ったために孤立していた。1948年アカデミーに、翌年大に復帰する。1953年以後、何度か憧れのヨーロッパを訪れる。1962年1月イスタンブルで死去。
詩人としては夙に知られたが、生前発表された74の詩の中の37編が『詩集』(1961年)として出版された。小説では、本書『心の平安』(新聞連載1948年、出版1949年)、『時間調整研究所』(1954年)、随筆『五つの都市の物語』(1946年)が特に有名(いずれも未邦訳)。その他、研究書、評論、翻訳、シナリオ等多数。
●和久井路子(わくい・みちこ)
横浜生まれ。アンカラ在住。フェリス女学院を経て、東京大学文学部言語学科卒業。同大学院修士課程修了(言語学・トルコ語学)。リハイ大学(アメリカ)で博士号取得(外国語教育)。現在、中東工科大学(アンカラ)現代諸語学科勤務。訳書にオルハン・パムク『わたしの名は紅』『雪』『父のトランク』『イスタンブール』、オスマン・ネジミ・ギュルメン『改宗者クルチ・アリ』(いずれも藤原書店)。