A5変上製 280ページ
ISBN-13: 9784865780475
刊行日: 2015/10
明治の児らは、ひたとフランスに憧れた――「フランス憧憬」が生んだ日本近代文学の系譜
明治から大正、昭和に向けて、文語から口語へと日本の文学が移りゆくなか、フランスから脈々と注ぎこまれた都市的詩情とは何だったのか。
その媒体となった画文交響の雑誌「明星」と、キーパーソンとしての“編集者”与謝野鉄幹、そして、上田敏、石川啄木、北原白秋、永井荷風、大杉栄、堀口大學らの「明星」をとりまく綺羅星のごとき群像を通じて描く。
目次
まえがき
1 ヴィオロンのためいき
詩の「明星」/翻訳の「明星」/西洋かぶれの系譜/『海潮音』の響き/『みだれ髪』の西洋
2 「明星」というメディア
アート繚乱/「鉄幹是なれば子規非なり」/始まりの遊戯形式/
文語の「威」/与謝野寛、そのデカダンス
3 青春――憂鬱と革命
自然主義という流行――「明星」から「スバル」へ/青春の饗宴/
憂鬱と官能――白秋の青春/「食ふべき詩」――啄木の青春/思郷と東京
4 印象派という流行
印象明瞭/パンの会――風俗としての芸術家/「屋上庭園」と「方寸」/
印象派という流行/白秋の視官能
5 ふらんす物語――芸術と肉体
カルチエ・ラタンの青春/娼婦たち/放蕩/ナナのゆくえ/
モンマルトルの夜の戯れ/黄昏の瞑色
6 鉄幹の巴里 藤村の巴里
鉄幹の新生/モンマルトルのベルエポック/芸術家に会う/リラの花/藤村の憂鬱/
小山内薫とダヌンツィオ/河上肇とドビュッシー/大戦下のパリ
7 アナキストの言葉――大杉栄
監獄学校/生きる言葉/花に舞ふ/パリのミディネット/ラ・サンテの春
8 月下の一群――モダンエイジへ
十八の日の直きこころに/美くしき少年/異邦人/『月下の一群』/モダンエイジ/
エロティシズム論争/大衆の方へ
あとがき
主要引用参照文献
人名索引
関連情報
改めて「スバル」と「明星」を読んでみて、最も心にかかったのは「翻訳もの」の多さである。明敏なジャーナリスト与謝野鉄幹は西洋文芸こそ時代の先端なのだとみてとったのだ。なかでも、「フランス」ものの翻訳がきららかな地位を占めたのは、やはり上田敏の訳詩の素晴らしさに尽きていると思う。『海潮音』所収の訳詩の多くが「明星」初出である。フランス象徴派の愁いと雅びが品格ある文語に移しおかれて、どれほどの憧憬をよびさましたことだろう。白秋が、荷風が、そして、鉄幹その人がひたとフランスに憧れた。「明星」とはまさに「フランスかぶれ」の雑誌であったのだ。
くわえて、「明星」の特色である画文交響もフランスかぶれに拍車をかけた。画家たちがいっせいにパリをめざしたからである。時まさに印象派の興隆期。芸術はフランスからやってきたのだ。
(本文より)
●山田登世子(やまだ・とよこ)
フランス文学者。愛知淑徳大学名誉教授。
主な著書に、『メディア都市パリ』『モードの帝国』(ちくま学芸文庫)、『娼婦』(日本文芸社)、『声の銀河系』(河出書房新社)、『リゾート世紀末』(筑摩書房、台湾版『水的記憶之旅』)、『晶子とシャネル』(勁草書房)、『ブランドの条件』(岩波書店、韓国版『Made in ブランド』)、『贅沢の条件』(岩波書店)、『誰も知らない印象派』(左右社)など多数。
主な訳書に、バルザック『風俗研究』『従妹ベット』上下巻(藤原書店)、ポール・モラン『シャネル――人生を語る』(中央公論新社)、モーパッサン『モーパッサン短編集』(ちくま文庫)、ロラン・バルト『ロラン・バルト モード論集』(ちくま学芸文庫)ほか多数。