- 新保祐司
- 四六上製 328ページ
ISBN-13: 9784865780864
刊行日: 2016/08
“封印”されていた交声曲(カンタータ)は、今、なぜ復活したのか?
「海ゆかば」の信時潔の作曲、北原白秋の作詩による交声曲「海道東征」。戦後封印されてきた大曲が戦後70年に復活公演され、大きな感動で迎えられたが、その10年をかけた復活劇は著者の「信時潔論」が強力に牽引していた。東日本大震災という未曽有の災害により「戦後日本」が根底から揺るがされた、戦後60年から70年の10年間における、日本社会の精神史的考察の集成。
2016年10月3日、ザ・シンフォニーホール(大阪)にて「海道東征」再演決定!
目次
序 今、なぜ「海道東征」か
Ⅰ 「海ゆかば」と「海道東征」の復活
Ⅱ 音楽が語りかけるもの
Ⅲ 明治の精神から考える
Ⅳ 戦後日本を問い直す
Ⅴ 東日本大震災から日本を問う
あとがき――日本人の精神の重石
本書関連略年表(2005-2016)
人名索引
関連情報
戦後70年の節目の年であった昨年の11月下旬、戦後日本の精神史を画する事件が起きた。事件といっても、或る一つの楽曲の演奏会が開かれたという、一見ささ
やかな出来事であるが、人間の精神の深みで起きる本当に大事なことは、えてしてそういう風に出現するものである。
それは、交声曲「海道東征」の復活公演のことである。この北原白秋作詩、信時潔作曲による楽曲は、昭和15年にいわゆる紀元2600年の奉祝曲として神武東征を
題材として創られ、戦前は盛んに演奏された。しかし、戦後は、題材のことや創られた経緯もあり、封印されてきたといっていい。それが、昨年、大阪で2回、
東京で1回、演奏会が開かれたのである。すべて満員の盛況であった。
19世紀のフランスの詩人、ボードレールは、1861年に「リヒャルト・ヴァーグナーと『タンホイザー』のパリ公演」という音楽批評の傑作を残したが、このパリ公
演は、歴史的な事件であった。ヴァーグナーの音楽が持っていた精神史的な意義をボードレールは見事に見抜いた。そのような意味で今回の、特に大阪での「海
道東征」の公演は、まさに精神史上の歴史的な事件であった。
(本書「序」より)
●新保祐司(しんぽ・ゆうじ)
1953年生。東京大学文学部仏文科卒業。文芸批評家。現在、都留文科大学教授。
著書に、『内村鑑三』(1990年)『文藝評論』(1991年)『批評の測鉛』(1992年)『日本思想史骨』(1994年)『正統の垂直線――透谷・鑑三・近代』(1997
年)『批評の時』(2001年)『国のさゝやき』(2002年)『信時潔』(2005年)『鈴二つ』(2005年)[以上、構想社]、『島木健作――義に飢ゑ渇く者』(リ
ブロポート、1990年)、『フリードリヒ 崇高のアリア』(角川学芸出版、2008年)、『異形の明治』(藤原書店、2014年)、『シベリウスと宣長』(2014年)
『ハリネズミの耳――音楽随想』(2015年)[以上、港の人]がある。また編著書に、『北村透谷――〈批評〉の誕生』(至文堂、2006年)、『「海ゆかば」の
昭和』(イプシロン出版企画、2006年)、『別冊環⑱ 内村鑑三 1861-1930』(藤原書店、2011年)がある。
2007年、フジサンケイグループ第8回正論新風賞を受賞。