- 大田堯・山本昌知 著
- B6変上製 288頁
ISBN-13: 9784865780895
刊行日: 2016/9
精神科医と教育研究者の魂の対話
「ひとなる」とは、人格の完成をめざすこと。
目次
はじめに
Ⅰ 「ひとなる」とは 大田堯
1 「教育」と民主主義
日本民主主義の未熟さ、自分の弱さ
第一次安倍政権による旧教育基本法の改定
教育基本法の成り立ち
日本の近代化と教育
「教育」は誤訳か?
学問と教育
東アジアの新しい連帯の創出を
「エデュケーション」とは
2 「教育」と「学習」
まず教育からではなく、学習から
生きものの根源は、ちがう・かかわる・かわる
生活綴方
戦後における教育と学習
「学び舎」の教科書
聞き上手の学力
3 アートとは何か
アートとしての教育
「読みかたり」はかかわること
大きな学校・小さな学校
生命にかかわる仕事の価値を高める社会に
医療・教育・福祉の共通点
就業社会をめざして
Ⅱ ちがう・かかわる・かわる ――教育研究者と精神科医の対話 大田堯・山本昌知
1 ちがう――生きてあるということ
映画「かすかな光へ」に出会って
地域の中での精神医療
人は存在することに意味がある
実践とは再現不可能なもの
科学と制度の恩恵と限界
「いや」と言えない子どもたち
相互作用のある関係を構築する
かかわることと変わること
2 かかわる――精神医療と教育の現場で
「こらーる岡山」の「間」
「なんにもセンター」が主体性を育てた
生きものは自分で変わる
平和の反対は無関心
他者を変えることはできない
専門家はどう貢献してきたのか
からだの病とこころの病
雇用と被雇用、教える者と教えられる者の関係を乗り越えるには
3 かわる――人間性を回復するためのかすかな光
エリート一族に育った永井さんの生い立ち
永井さんの「役割をきちんと果たす」性格
居場所と出番を探し、人間性を回復する
人を信じることで、こころにゆとりが生まれる
サークルでひととき自分の時間を取り戻す
患者と伴走し、苦しみをともにする
生と死は循環系である
野田さんの死と、死後に見えた生き方
対症療法ではなく患者の人生の流れの中で見る
医療も教育も「アート」である
[補]「こらーる岡山」の患者たち 山本昌知
明智さん
江井さん
三井さん
志位さん
和田さんの診療記録から
雨宮さん
藤原さん
吉本さん
あとがき 山本昌知
あとがき 大田堯
関連情報
■「ひとなる」という言葉を私が耳にしたのは、岐阜県東濃の加子母村という、標高五百メートルの山村ででした。一九六五年三月のことです。
■印象的だったことは、この村のたたずまいにもふさわしいおばあちゃんが、「およそ子どもは、神さまからの授かりもの、その子の生命にそうて、みんなの世話で、『ひとなる』もの」と方言によっておっしゃったことでした。
■あの加子母のご老人たちが、日常語として子育ちを「ひとなる」と言われることは、まさに「人格の完成をめざす」という、人類すべてに通じる願望であると納得できるように思うのです。私がこの本の題名を「ひとなる」としたのは、このような思いからのことです。
(大田堯)
【山本】 患者さんの妄想や幻聴の症状が前面に出てきますと、それに圧倒されて、とりあえずは、その目前の症状だけに対応します。専門職のあいだではそれで通用するわけです。しかし、実際には、その症状は、ずっと人生を生きてきた結果の一部分だけで、自分が生きてきた体験の中に本来の自分があるんだということを患者さんは主張します。その本人らしさを回復していかなければいけないのに、それを壊すような対応や、逆のことをする医療になると、本当の意味で解決にはなりません。
【大田】 ちがうこと、かかわることに、折りあいをつけて生きつづけるという、循環系のいとなみは、あらゆる生きものがやっているわけですから、これはもう人間だけの問題ではない。根源的自発性を前提にして、この自発性を助けるのが教育の仕事なので、それは本来、非常にむずかしい、高度なアートなんです。
著者紹介
●大田堯(おおた・たかし)
1918年広島県生まれ。教育研究者(教育史・教育哲学)。東京帝国大学文学部卒業。東京大学教育学部学部長、日本子どもを守る会会長、教育科学研究会委員長、日本教育学会会長、都留文科大学学長、世界教育学会(WAAER)理事などを歴任。現在、東京大学名誉教授、都留文科大学名誉教授、日本子どもを守る会名誉会長、北京大学客座教授。
単著に『教育の探求』(東京大学出版会)、『教育とは何か』『教育とは何かを問い続けて』(岩波新書)、『地域の中で教育を問う』(新評論)他多数。2013年から自身の仕事の集大成として、『大田堯自撰集成』(全4巻、藤原書店)を刊行し、翌年春完結。
2011年には、その思索と行動の軌跡を追った映画「かすかな光へ」(監督・森康行)が完成、2015年5月現在全国500カ所以上で自主上映が展開中。
●山本昌知(やまもと・まさとも)
1936年岡山県生まれ。1961年岡山大学医学部卒業。岡山県立病院(当時)、尾道市青山病院勤務を経て、1972年に岡山県精神衛生センター(当時)の所長に就任。青山病院時代1969年から「精神病院の鍵は誰が締めているのだろうか」「どんな意味があるのだろうか」をテーマに、入院患者、看護者と話し合いを重ね、閉鎖病棟の鍵を開ける取り組みを始める。1997年、同センターを希望退職後、無床診療所「こらーる岡山」を開設。同代表を務めて2016年閉院。
2008年、「こらーる岡山」を舞台としたドキュメンタリー映画「精神」(監督・想田和弘)が公開された。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです