- 脱工業化都市研究会=編著
- 大石尚子/岡部明子/尾野寛明/清水裕之/白石克孝/松永桂子/矢作弘/和田夏子/マグダ・ボルゾーニ
- A5上製 272頁 カラー口絵8頁
ISBN-13: 9784865781144
刊行日: 2017/2
イタリア第四の都市トリノは、いかにして「フィアット城下町」からの脱却に成功したのか?
自動車産業依存を脱し、スローフード振興、スモールビジネスの促進など、新たな産業都市への転換を果たした都市、トリノ。
人口減少下の都市の未来像を提起する最新の学際的論集。
2006年冬季オリンピック実現の背後にあった衰退都市の再生の物語。
目次
はじめに 矢作弘
第一部 ポスト煤煙型産業都市の空間戦略
第1章 多層的なプログラムによる都市イノベーション 白石克孝
――EUの結束政策のインパクトをふまえて――
第2章 近代フォーディズム型から脱却した地域の「かたち」 岡部明子
――トリノ・シティリージョン――
第3章 トリノの都市計画と水と緑の再生計画の展開 清水裕之
第二部 フィアット時代の「産業資源」を生かす
第4章 ポスト産業都市にみるスモールビジネス支援とコミュニティ再生 松永桂子
第5章 トリノ・I3Pの事例に見るインキュベーションの案件発掘力 尾野寛明
第6章 産業転換による工場転用と地域の活性化 和田夏子
第7章 「スロー」的思考とソーシャル・イノベーション 大石尚子
――メトロポリタン都市化に向けた食文化ネットワークの新たな展開――
第三部 都市再生の表裏――変容するコミュニティ
第8章 ジェントリフィケーションを考える 矢作弘
――都市再編過程にあるトリノを事例に――
第9章 旅行者が無視しているもの マグダ・ボルゾーニ
――地区(サン・サルヴァリオ)の変容に対する愛憎、衝突、そして折り合い――
トリノ関連略年表(1280~2011年)
関連情報
トリノでは、20世紀になると、フィアットのワン・カンパニー・タウン化が急進展し、鉄道の両側に自動車工場、その部品工場、製鉄所などが連棟するようになった。労働者向けに陳腐な集合住宅も建ち並び、街は灰色になった。市域は真っ二つに分断され、トリノは、プロトタイプの「フォーディズム型都市構造」になった。
20世紀後半になるとフィアットは往時の活力を維持できなくなった。ヨーロッパの市場統合の進展、グローバル競争の激化などがフィアットの経営には強い向かい風になった。生産の縮退、雇用削減、工場の閉鎖が常態化し、いよいよトリノは「縮小都市」になった。
しかし2000年以降、人口が増加に転じ、脱フィアット(ワン・カンパニー・タウン)色を鮮明にしながら経済社会の構造転換を促進し、「トリノの奇跡」と称賛されている。
都市縮小を調査研究するのに際し、縮小を否定的に捉えず、「受容」するところから出発することにした。成長・開発優先時代の都市が作り出した「負の遺産」=「空き」を、都市再生のために「有用な資源」と捉え直すところに、パラダイムの転換がある。すなわち、都市縮小を、持続可能な都市の「かたち」に転換活用するチャンス(創造的縮退)と考える理論仮説に、本研究の特色がある。
(本書「はじめに」より)
著者紹介
【編著者】
◎脱工業化都市研究会
●大石尚子(おおいし・なおこ)
1973年生まれ。龍谷大学准教授。ソーシャル・イノベーション。
●岡部明子(おかべ・あきこ)
1963年生まれ。東京大学大学院新領域創成科学研究科教授。建築学・環境学。
●尾野寛明(おの・ひろあき)
1982年生まれ。有限会社エコカレッジ代表取締役、島根県中山間地域研究センター客員研究員。過疎地における障害者就労支援、地方の担い手不足と中間支援。
●清水裕之(しみず・ひろゆき)
1952年生まれ。名古屋大学大学院環境学研究科教授。都市環境学。
●白石克孝(しらいし・かつたか)
1957年生まれ。龍谷大学政策学部教授。公共政策学。
●松永桂子(まつなが・けいこ)
1975年生まれ。大阪市立大学大学院創造都市研究科准教授。地域経済論。
●矢作弘(やはぎ・ひろし)
1947年生まれ。龍谷大学特任教授。都市政策。
●和田夏子(わだ・なつこ)
1975年生まれ。UDS株式会社、日本大学生産工学部非常勤講師、東京大学客員共同研究員。環境学。
●マグダ・ボルゾーニ(Magda Bolzoni)
1984年生まれ。日本学術振興会外国人特別研究員(在龍谷大学)。都市社会学。
(五十音順)
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです