- 多田富雄 著
- [解説]中村桂子・吉川浩満
- 四六上製 344頁 口絵2頁
ISBN-13: 9784865781212
刊行日: 2017/4
「免疫学」の最先端の成果を通じて決定的な知的衝撃を与えた多田富雄の全貌! 発刊!
1990年代初頭、近代的「自己」への理解を鮮烈に塗り替えた多田の「免疫論」の核心と、そこから派生する問題系の現代的意味を示す論考を精選。
[推薦]石牟礼道子・梅若玄祥・中村桂子・永田和宏・福岡伸一・松岡正剛・養老孟司
目次
多田富雄、この人を見よ――序に代えて
Ⅰ 免疫という視座――「自己」と「非自己」をめぐって
免疫とは何か/免疫の発見/免疫をめぐる「知」の歴史/組織適合抗原と免疫/免疫の内部世界/多様性の起源/拒否の病理としてのアレルギー/自己免疫の恐怖/あいまいな「自己」/抑制性T細胞の過去と現在/サーカス 免疫学の冒険/ファジーな自己/生命のアイデンティティー/甲虫の多様性、抗体の多様性/都市と生命/超システムの生と死
Ⅱ 「超システム」としての生命
老化/超システムとしての人間/「超システム」補遺/ペンヘヌウトジウウからの手紙/利己的DNA/手の中の生と死/誕生と老い/人間の眼と虫の眼/落葉と生命/真夏の夜の悪夢/死は進化する/人権と遺伝子/共生と共死/クローン問題と生命の倫理/ゲノムの日常/今年限りの桜に会わん
〈解説〉
自然・生命・人間を考えるために 中村桂子
多田富雄の意味論 吉川浩満
関連情報
免疫はたんに微生物から体を守る生体防御のための働きではなくて、基本的には「自己」と「自己でないもの(非自己)」を識別して、「非自己」を排除して「自己」の全体性を守るという機構である。
なぜ「自己」に対しては反応を起こさず、「非自己」に対してはこれほど不寛容に排除の反応を起こすのか。
こうした生体反応を理解することによって、「自己とは何か」「非自己とは何か」という哲学的な問題にさえ立ち入ることになる。
――T. T.
■日常私たちは、脳こそ自己を支配していると考えますが、生命科学は免疫という身体的自己の規定がもつ意味を明確に打ち出しました。そして胸腺という成長と共に消失する、通常は注目されない臓器が、自己の規定にとって重要という新しい視点を出したのです。ここから免疫の抑制・阻害も見えてきました。
――中村桂子(本書解説より)
■超システムと命名された多田の生命論は、自分を構成する要素を自分で創りだすという点で工学的システムを超えている。これは従来の機械論的な生命論に対する代案であり、二十世紀の生命科学の発展に見合った、生命の新たな定義である。
――吉川浩満(本書解説より)
著者紹介
●多田富雄(ただ・とみお)
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発表、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイスト・クラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞社)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです