- 多田 富雄
- [解説]立岩 真也・六車 由実
- 四六上製 320ページ
ISBN-13: 9784865781373
刊行日: 2017/08
脳梗塞による右半身麻痺と 構音・嚥下障害の身体は多田富雄をいかに変えたのか。
世界的免疫学者として各地を飛び回っていた多田を、突如襲った脳梗塞の発作。新しい「自己」との出会い、リハビリ闘争、そして、死への道程……生への認識がいっそう深化した、最晩年の心揺さぶる言葉の数々。
[解説]立岩真也・六車由実
[推薦]石牟礼道子・梅若玄祥・中村桂子・永田和宏・福岡伸一・松岡正剛・養老孟司
目次
Ⅰ 寡黙なる巨人
〈詩〉新しい赦しの国/小謡 歩み/寡黙なる巨人/回復する生命 その1/回復する生命 その2/苦しみが教えてくれたこと/障害者の50年/理想の死に方
Ⅱ 人間の尊厳
〈詩〉君は忿怒佛のように/診療報酬改定 リハビリ中止は死の宣告/小泉医療改革の実態/44万人の署名を厚労省に提出したときの声明文/メッセージ/リハビリ制限は、平和な社会の否定である/リハビリ制度・事実誤認に基づいた厚労省の反論/リハビリ打ち切り問題と医の倫理/ここまでやるのか厚労省/介護に現れる人の本性
Ⅲ 死を想う
死の生物学/二つの死/引き裂かれた生と死/死のかくも長いプロセス/父の教訓/「老い」断章/高齢化社会への生物学者の対応/樫の葉の声/夏の終り/「何で年寄る」/死相/中也の死者の目/春は桜の歓喜と憂い/比翼連理
〈解説〉
リハビリテーション専門家批判を継ぐ 立岩真也
老人よ、生きる希望を持て、そして忿怒佛のごとく怒れ 六車由実
関連情報
私はかすかに動いた右足の親指を眺めながら、
これを動かしている人間はどんなやつだろうとひそかに思った。
得体の知れない何かが生まれている。
もしそうだとすれば、そいつに会ってやろう。
私は新しく生まれるものに期待と希望を持った。
新しいものよ、早く目覚めよ。
今は弱々しく鈍重だが、彼は無限の可能性を秘めて私の中に胎動しているように感じた。
私には、彼が縛られたまま沈黙している巨人のように思われた。
――T. T.
多田が闘った相手、闘った状況についてどうしたらよいのか、どんな筋で、どんな道を行くか、私も気になってきた。細切れにされた科学に対して、なにか全体的な認識を対置するといったことがあって、多田もそうした脈絡で評価され、それはけっこうなことだと思いつつ、別のこともしなければと思ってきた。
――立岩真也(本書解説より)
介護を受ける老人たちは、そうした老人の人権を無視した政策に泣き寝入りするしかないのか。多田だったら、今の事態に対して何を言うだろう。もちろん黙ってはいないに違いない。けれど、きっとそれ以上にこう力強く訴えるのではないか。
「老人よ、忿怒佛のごとく怒れ!」と。
――六車由実(本書解説より)
●多田富雄(ただ・とみお)
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発表、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイスト・クラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞社)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。