- 多田 富雄
- [解説]赤坂 真理・いとうせいこう
- 四六上製 344ページ
ISBN-13: 9784865781458
刊行日: 2017/10
「自己」と「非自己」を問うた世界的免疫学者にとって「能」とは何だったのか。
戦争・原爆・脳死など現代的な課題に迫る数々の新作能を手がけた多田富雄が、死者の眼差しの芸能としての「能」から汲み取ったもの、そして、その伝統に付け加えたものとは何だったのか?
[解説]赤坂 真理・いとうせいこう
[推薦]石牟礼道子・梅若玄祥・中村桂子・永田和宏・福岡伸一・松岡正剛・養老孟司
目次
Ⅰ 舞台によせて
〈詩〉歌 占/雨と女/水の女/OKINA/死者たちの復権
Ⅱ 能を語る
春の鼓/戸井田道三『観阿弥と世阿弥』/老女の劇/能を観る/
能の本を書く事/脳の中の能舞台/日本の伝統/姨 捨/
能楽二十一世紀の観点/第三の眼/間の構造と発見/
日本人とコイアイの間/ビルマの鳥の木/白洲さんの心残り/
山姥の死 鶴見和子さん
Ⅲ 新作能
無明の井/望恨歌(マンハンガ)/一石仙人/原爆忌/
生死の川――高瀬舟考/花供養
〈解説〉
切実な切実な、生命の書 赤坂真理
貪欲と寛容について いとうせいこう
関連情報
能楽堂にゆく。
お目当ての能があっても、そうでなくてもいい。
ときには魂をゆさぶられ、ときには深い眠りに落ちる。
そこには、ふしぎに物を考える空間がある。
現実と空白が入り交じるふしぎな時間が流れる。
そして、めったに会うことのできない「あのひとたち」と会うことができる。
その出会いのために能楽堂にゆく。
――T. T.
この仕事を経ることで、多田富雄の認識はわたしの中で決定的に変わってしまった。
多田富雄は、偉大な詩人で劇作家で、しかも、免疫学の世界的権威である。その順番は、逆ではない。
――赤坂真理(本書解説より)
すでに亡くなってしまった多田富雄はそのように私の中で超自我に組み込まれてこの世を見張っているのだと気づくと、もはやそれが能としての機能のひとつであることは言うまでもなく、多田先生はいまや舞台の裏、そもそも世阿弥が「後ろ戸の神」がいるといったあたりに、ノートを持ってじっとしているような気もしてくる。
――いとうせいこう(本書解説より)
●多田富雄(ただ・とみお)
1934年、茨城県結城市生まれ。東京大学名誉教授。専攻・免疫学。元・国際免疫学会連合会長。1959年千葉大学医学部卒業。同大学医学部教授、東京大学医学部教授を歴任。71年、免疫応答を調整するサプレッサー(抑制)T細胞を発表、野口英世記念医学賞、エミール・フォン・ベーリング賞、朝日賞など多数受賞。84年文化功労者。
2001年5月2日、出張先の金沢で脳梗塞に倒れ、右半身麻痺と仮性球麻痺の後遺症で構音障害、嚥下障害となる。2010年4月21日死去。
著書に『免疫の意味論』(大佛次郎賞)『生命へのまなざし』『落葉隻語 ことばのかたみ』(以上、青土社)『生命の意味論』『脳の中の能舞台』『残夢整理』(以上、新潮社)『独酌余滴』(日本エッセイスト・クラブ賞)『懐かしい日々の想い』(以上、朝日新聞社)『全詩集 歌占』『能の見える風景』『花供養』『詩集 寛容』『多田富雄新作能全集』(以上、藤原書店)『寡黙なる巨人』(小林秀雄賞)『春楡の木陰で』(以上、集英社)など多数。