- 新保祐司
- 四六上製 416ページ
ISBN-13: 9784865781953
刊行日: 2018/10
「美」でも「利」でもなく「義」を生きた人物たちの系譜
明治以降の日本の精神史において、近代化の奔流に便乗することなく、神・歴史・自然に正対する道を歩んだ人物たち。
近代が黄昏を迎えつつある今改めて浮上する、「義」の人物たちの系譜!
目次
序――「硬文学」としての人物論
1
一 田中小実昌
戦後日本のアウトサイダー
二 三島由紀夫
三島由紀夫と崇高/西郷隆盛の「凡人の道」に惹かれた天才
三 五味康祐
「鹿の渓水をしたひ喘ぐがごとく」音楽を求めた人
四 島木健作
「正義派型アウトサイダー」/日本が忘れた義の心――島木健作没後六十年/
島木健作の「復活」/「硬文学」としての島木文学/『赤蛙』の復刊
五 大佛次郎
「歴史」の使徒、大佛次郎――生誕一〇〇年を前に/
大佛次郎『敗戦日記』と島木健作の死/
歴史の「物自体」――『天皇の世紀』をめぐって/
大佛次郎の現代小説の真価/大佛次郎とゲーテ――鞍馬天狗とエグモント
2
一 江藤淳
最後の「文芸評論家」
二 福田恆存
福田恆存と「絶対神を必要としなかつた日本人」
三 小林秀雄
透谷・小林・モーセ/「空気」から脱出する「流儀」/
小林秀雄の文学的出発――「血肉化」の問題/
小林秀雄の「モオツァルト」と吉田秀和の「モーツァルト」/
鎌倉妙本寺の海棠/小林秀雄の三つの言葉/「上手に思ひ出す事」の難しさ/
批評精神の秘密を明かす魂の対話録
四 北村透谷
批評の塩について/「考へる事を為て居る」人間の出現/
透谷の「眼高」/透谷と中也――「お前の評論はこうだからな。」
3
一 信時潔
「海ゆかば」の作曲家/「海ゆかば」――「義」の音楽/
家持と信時の「海ゆかば」/信時潔vs山田耕筰――「海道東征」と「神風」/
没後四十年にあたって/信時潔の名曲「やすくにの」と戦後の虚妄/
耳ある者は聴くべし――「海ゆかば」/信時潔の復活
二 北原白秋
叙事詩人への道
三 富岡鉄斎
鉄斎の墓を尋ねて――忘れ去られた「義」の画風
4
一 村岡典嗣
村岡典嗣の復活/学問から「作品」を生んだ人――『本居宣長』の復刊に思う/
日本人の一神教性――村岡典嗣をめぐる架空の対話
二 内村鑑三
没後七十年――キリスト者内村鑑三/心の復興の灯台/
内村鑑三の磁場/内村鑑三の国家観――イエスと日本、二つのJ/
古武士ビーアドと内村鑑三の弟子たち
5
一 中谷宇吉郎
「天」へ開かれつづけた「北方の人」
二 渡辺京二
ノスタルジーと無縁な「苦さ」――『逝きし世の面影』
三 粕谷一希
「声低く」語られた叡智の言葉
あとがき/初出一覧/主要人名索引
関連情報
■内村鑑三の「日本は美を愛する点に於てはギリシヤに似て居るが、其民の内に強く義を愛する者があるが故に、其国民性にユダヤ的方面がある。」という指摘は、日本あるいは日本人を考える上で、決定的に重要な点である。文化史を眺めれば、「日本は美を愛する」ように見える。例えば、日本美術史の輝かしい傑作群を思い浮かべるだけでも、日本人の美に対する追求の素晴らしさが分かる。多くの美の天才が存在したのである。
■しかし、少数派かもしれないが、例えば明治維新のような危機の時代には、「強く義を愛する者」が登場した。義のアウトサイダーともいえるかも知れない。この「強く義を愛する者」たちが、実は日本の歴史を支え、日本の精神史を貫く一本の背骨を形成したのである。私にとって、人間を観るというのは、義の視点から捉えることであり、人物とは義によって人間を超克しようとした人間のことである。
(本書「序」より)
【著者紹介】
●新保祐司(しんぽ・ゆうじ)
1953年生。東京大学文学部仏文科卒業。文芸批評家。現在,都留文科大学教授。
著書に,『内村鑑三』(1990年)『文藝評論』(1991年)『批評の測鉛』(1992年)『日本思想史骨』(1994年)『正統の垂直線――透谷・鑑三・近代』(1997年)『批評の時』(2001年)『国のさゝやき』(2002年)『信時潔』(2005年)『鈴二つ』(2005年)[以上,構想社],『島木健作――義に飢ゑ渇く者』(リブロポート,1990年),『フリードリヒ 崇高のアリア』(角川学芸出版,2008年),『シベリウスと宣長』(2014年)『ハリネズミの耳――音楽随想』(2015年)[以上,港の人],『異形の明治』(2014年)『「海道東征」への道』(2016年)『明治の光・内村鑑三』(2017年)『「海道東征」とは何か』(2018年)[以上,藤原書店],『明治頌歌――言葉による交響曲』(展転社,2017年)がある。また編著書に,『北村透谷――〈批評〉の誕生』(至文堂,2006年),『「海ゆかば」の昭和』(イプシロン出版企画,2006年),『別冊環? 内村鑑三 1861-1930』(藤原書店,2011年)がある。
2007年,第8回正論新風賞,2017年,第33回正論大賞を受賞。