- 原剛 著
- 佐藤充男=写真
- 四六並製 328頁 カラー口絵8頁
ISBN-13: 9784865782646
刊行日: 2020/4
海、山、川、野鳥、里山……日本各地の「原風景」を訪ね、価値観の根源を問い直す!
生活全体の産業化・科学技術化が高度に進展する一方、多くの自然災害の到来により我々の存在の基盤が揺さぶられている今、「環境日本学」の提唱者による、ナショナリズムを超えた第四の「風景」論への挑戦。
目 次
はじめに――今、なぜ原風景か
序 まほろばの里で――イザベラ・バードの奥州路
イザベラ・バード感動の旅――米沢平野
〈コラム〉黒沢峠
文化としての蛍の灯――高畠
〈コラム〉高安犬と犬の宮
田毎の月――高畠
〈コラム〉ばあちゃんの野菜
1 海――抵抗者たちの海
天才たちが魂こめた海景――五浦
断崖に架かる神――石廊崎
〈コラム〉舟霊を祭る
潜伏キリシタンの「あまりにも碧い海」――平戸
水俣湾、二つの原風景
〈コラム〉花を奉るの辞
2 山――山岳に宿る神仏
神、自然、人がまじわる安曇野――常念岳
〈コラム〉天蚕糸への思い
天に掛かる岩の梯子――磐梯山
〈コラム〉魂で酒を飲む
月の山に祈る――月山
〈コラム〉アルゴディア研究会
水巡る物忌の山――鳥海山
〈コラム〉伝統芸能を培う神仏と人
狐火ともる麒麟山
〈コラム〉ツル細工の知恵
リンゴ園を統べる岩木山
〈コラム〉心を癒す森のイスキア
3 川――原風景を貫流する川
清流奔るヤナ場――魚野川
〈コラム〉神と共に飲むどぶろく――どぶろく特区
三面川の鮭文化
矢を射つ若き利根川
〈コラム〉「民話の語り達人」持谷靖子さん
伝統と変革をつなぐ――日本橋
〈コラム〉うぶけや
4 野鳥――文化としての野鳥
朱鷺、文化の舞――佐渡
越冬の雁、支える稲田――大崎耕土
〈コラム〉蕪栗沼
アイヌの神、シマフクロウへの共感――根釧原野
5 里山――懐かしい里山を訪ねる
棚田に刻まれた先人の営み――十日町
〈コラム〉「ええ、ぼちゃだ」
人と環境が織り成す、懐かしい風景――飯山
〈コラム〉信州人情物語
風と水を映す信州の原風景――上田
〈コラム〉猿飛佐助はアウトサイダー
縄文秋田の懐へ――乳頭温泉
作家たちの原風景――湯ケ島
〈コラム〉温泉人の心意気
女神舞う、花の大滝――三春
〈コラム〉直観文化の粋/駒跳ねる、デコ屋敷/張子人形に想いを
補 東日本大震災の現場から
心を映す風景――東北の浄土、中尊寺
塩の神様への畏敬――塩竈神社
蘇る宮沢賢治――花巻
宮沢賢治の海――石巻
3・11と魂の行方
〈コラム〉『遠野物語』第九十九話「魂の行方」
「日本はかならず 日本人がほろぼす」――あとがきにかえて
関連情報
巨大な災害に直面した社会では、元あった姿に復帰しようとする「立て直し・復旧」のエネルギーと、新しい規範に基づいて社会を作り変えていこうと試みる「世直し・復興」の動きとがぶつかり、連動していく。文明史的な経験に学ばず、例えば原発再開に見られる「復旧」の動きは政府、自治体の主導により進められてきた。
しかし、日本社会は3・11から九年を経た二〇二〇年の現在、いまだに世直し(復興)の理念を見出し得ていない。社会はいわば海図なき漂流に陥り、人心は右往左往している。そのさ中に、文化の基層に発し、自己確認の手がかりともなる風景を読み解き、探求する第四の風景論が、日本人の内面的な欲求として待望されている。
何によって第四の風景論は論じられ、その認識は共有されうるのであろうか。その解への手がかりを得る試みを、私たちの精神と美意識形成のルーツである、文化の基層が表現された「原風景」を訪ねることから始めたい。そして日本人とは何か、風景の現場でアイデンティティ(自己)の確認を試み、文化に根ざす広範で揺るぎない共感と心構えとによって、世直しに向かいたい。
(本書より)
著者紹介
●原 剛(はら・たけし)
1938年生まれ。早稲田環境塾塾長、早稲田大学名誉教授、毎日新聞客員編集委員。
農業経済学博士。1961~98年毎日新聞社会部記者、デスク、科学部長、編集委員、論説委員。1998年早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授。早稲田大学特命教授、教務部、国際部参与を歴任。1993年国連グローバル500・環境報道賞受賞。
著書に『新・地球環境読本』(福武書店)『日本の農業』(岩波書店)『農から環境を考える』(集英社)『バイカル湖物語』(東京農大出版部)『中国は持続可能な社会か』(同友館)『環境が農を鍛える』(早稲田大学出版部)など多数。
【写真】
●佐藤充男(さとう・みつお)
1958年生まれ。写真家・広川泰士に師事。博報堂写真部、フォトプロダクションPointerを経て、現在フリーランスの写真家として活動中。日本広告写真家協会会員。APA展優秀賞CANON賞、毎日広告賞、日本産業広告総合展優秀賞、新聞広告賞優秀賞など。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです