- 北沢方邦 著
- 四六上製 304頁
ISBN-13: 9784865782677
刊行日: 2020/3
「脱近代の知」を問い続けてきた著者積年の集大成
「ホピ族との出会いが、私の生涯を決定づけた」(北沢方邦)
一九七〇年代に訪れた、北米ホピの村で仰いだ満天の星空に震撼された著者は、近代文明の行き詰まりを痛感し、私たちを閉じ込めている近代的リアリティ=「主観性の透明な牢獄」をいかにして乗り越えていくべきかについて思索を重ねる。
ベートーヴェンが残した「われらの内なる道徳律と、われらの上なる星空、カント!」ということばに秘められたカントとインド思想との出会いを導きの糸に、哲学、人類学、数学、物理学、量子論、後発性遺伝学等の脱領域的諸分野に生じている事態を読み解き、「世界像の大転換」の徴候を見出す。
近代的リアリティが生み出した主観性という透明な牢獄からの解放を目指し、身体と思考の不可分、人間と宇宙の一体性、多重世界との連続性をも視野に収めた積年の思考の集大成。
(カバー写真:ラスベガス在住の写真家、Ken Kanazawa)
目次
序 論―リアリティとはなにか
われらの上なる星空
見えない星空
近代の限界としてのリアリティ
科学にとっての隠されたリアリティ
自然科学の隠されたリアリティ――物理学の場合
自然科学の隠されたリアリティ――生物学の場合
リアリティとはなにか
第一章―ニヒリズムへの道――近代のリアリティ
星空と「革命」
宗教改革とそのさきがけ
オッカムの剃刀と宗教改革
神の抽象化と神の人間化
理性についての争い
近代理性とはなにか
近代理性と思想
イデオロギーとはなにか
マルクス主義と階級闘争
芸術における合理性の追求
歴史意識と歴史主義
近代固有の戦争と暴力革命
ニヒリズムの哲学
客観主義の陥穽
近代自然科学の陥穽
遺伝子決定論の挫折
絶対的袋小路としてのニヒリズム
第二章―ニヒリズムに抗して――近代のリアリティを超えて
星空とカント
一元論の伝統
先駆者スピノザ
先駆者の先駆者
偉大な孤独者ルソー
「自然に帰れ」
ゲーテ
ベートーヴェン
ロマン主義とはなんであったか
「新大陸」の狼火
二十世紀の「文化革命」
ニヒリズムに抗して
第三章―認識の王道――「未開」と古代のリアリティ
星空と宇宙論
神話的思考と科学的思考
満月の力
知覚・認知・認識
法と法律
倫理と道徳
文化と言語
文化の深層と対称性
文化の隠された構造
ジェンダーとはなにか
他 界
他界の力
自我の構造
隠されたリアリティの実在性
第四章―新しい世界像の出現――脱近代のリアリティ
暗黒物質・暗黒エネルギー
機械論的宇宙像からひずみたわむ宇宙像へ
コペンハーゲン解釈をめぐって
コペンハーゲン解釈の制覇と没落
多重世界の出現
超弦理論の登場
ブレーンと重力
数学の存在論
散逸構造
散逸構造としての生命体
ピョートル・クロポトキンと社会ダーウィン主義
分子生物学と新ダーウィン主義
微生物学と共生進化
エピジェネティックス(後発生遺伝学)の登場
一元論的全体性の復権
結 論―脱近代の知――リアリティを超える「リアリティ」
海と星
文明と思考体系
ニヒリズムとしての有神論と無神論
アジアの叡知
脱近代の知とはなにか
認識論としての構造主義
世界像の大転換と脱近代文明の樹立へ
[付] 今、なぜ丸山眞男を批判するか――戦後民主主義批判
戦後民主主義または戦後リベラリズム
戦後民主主義者としての丸山眞男
『古事記』の普遍性
近代の歴史意識の終焉
グローバリズムの終焉と知の変革
脱近代の知
あとがき
北沢方邦著書一覧(単行本として出版されたもの)
北沢方邦略年譜(一九二九― )
人名索引
関連情報
■人間の生活にとって不必要な過剰な人工照明や光の装飾の氾濫で、ほとんど星空のみえない大都会に住む多くの現代人にとって、ホピや古代人、あるいはベートーヴェンのみた夜空にあい対することはおろか、それを想像することさえできない。
■夜空だけではない。われわれは、近代社会が数世紀にわたって築きあげてきた、あくまでも透明なガラス箱のような主観性の枠組みを通じてしか、ものごとを認識することはできないのだ。取り巻いている日常の道具や家具から、窓外に広がる風景、あるいはテレビやIT器具の画面に映ずる異国の光景にいたるまで、この目にみえる世界がすべてであり、それが《リアリティ》である。
■思考体系もそうである。
(本書より)
著者紹介
●北沢方邦(きたざわ・まさくに)
1929年静岡県生まれ。信州大学名誉教授。構造人類学、音楽社会学、科学認識論専攻。
1948年堀辰雄・片山敏彦らの同人誌『高原』に小品を寄稿。同じ頃守田正義に師事、音楽を研究する。
1952年『音楽芸術』誌に「ベーラ・バルトーク」を寄稿して音楽評論家としてデビュー。以後、音楽教育に携わりながら、音楽評論を中心とした芸術評論で健筆をふるう。
1964年レヴィ=ストロースの『野生の思考』に出会い、知的衝撃を受け、以後執筆された批評は構造論的方法に基づくものとして大きな反響をよぶ。
1971年アメリカ合衆国国務省招待で、妻青木やよひとともに渡米、ネイティブ・アメリカンのホピとナバホに震撼させられ、近代性の失効をいかに乗り越えていくかということを生涯のテーマとするようになる。
著書は多数あるが、藤原書店からは以下の書籍が出版されている。『近代科学の終焉』(1998年)、『感性としての日本思想――ひとつの丸山真男批判』(2002年)、『風と航跡』(2003年)、『脱近代へ――知/社会/文明』(2003年)。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです