- A・コルバン+J-J・クルティーヌ+G・ヴィガレロ=監修 ジョルジュ・ヴィガレロ=編
- 片木智年=監訳
- A5上製 760頁 カラー口絵24頁
ISBN-13: 9784865782707
刊行日: 2020/4
心性史を継承するアナール派の到達点!
『身体の歴史』『男らしさの歴史』に続くシリーズ三部作完結編。
Ⅰ 古 代
古代ギリシア・ローマ世界においては、今日理解される意味での「感情」に正しく一致する言葉は、何ひとつ存在しない。後に「感情」と呼ばれるものを部分的にカバーするのは「情念」であり、本書の記述はそこからはじまる。
Ⅱ 中 世
中世の一時期は、混乱の時代であった。紀元後数世紀間は、暴力が蔓延し、極度なまでの粗暴さが、欲動、興奮状態、混沌、激しい動揺をまねいた。そうした社会で、適正に制御された感情は忘れられてしまったように思われる。それでも、蛮族の世界をうかがわせる遺跡やコードについてなされた数々の研究からは、ものごとをそう単純化してはならない、という教訓が得られる。
Ⅲ 近 代
新しい規制が作り出されることに伴って、同様にきわめて主要なもう一つの変化が起きる。変化の対象は、「感情」という言葉に関わってくる。この語は、十六世紀のテキストで初めて用いられ、辞書に初めて登場した。
目次
総 序 アラン・コルバン+ジャン=ジャック・クルティーヌ+ジョルジュ・ヴィガレロ 〔小倉孝誠訳〕
Ⅰ 古 代 (序) ジョルジュ・ヴィガレロ〔後平澪子訳〕
第1章 ギリシア人 モーリス・サルトル〔後平澪子訳〕
第2章 ローマ世界 アンヌ・ヴィアル=ロジェ〔後平澪子訳〕
Ⅱ 中 世 (序) ジョルジュ・ヴィガレロ〔後平澪子訳〕
第3章 ゲルマン人の時代 ブリュノ・デュメジル〔後平澪子訳〕
第4章 中世初期 バーバラ・ローゼンヴァイン〔小川直之訳〕
第5章 「心を動かす」と「心の動き」 クロード・トマセ/ジョルジュ・ヴィガレロ〔小川直之訳〕
第6章 中世における感情――理性の時代 ピロスカ・ナジ〔小川直之訳〕
第7章 感情についての日常的表現と医学的用例 クロード・トマセ〔小川直之訳〕
第8章 中世ヨーロッパにおける救済の情念 ダミヤン・ボケ〔小川直之訳〕
第9章 家族と感情的関係 ディディエ・レッツ〔片木智年訳〕
第10章 十四世紀から十五世紀における宮廷人の政治的感情 ローラン・スマッジュ〔小川直之訳〕
Ⅲ 近 代 (序) ジョルジュ・ヴィガレロ〔岩下綾訳〕
第11章 「感情」という言葉の出現 ジョルジュ・ヴィガレロ〔岩下綾訳〕
第12章 ルネサンスにおける感情の修辞学――モンテーニュの例 ローレンス・クリツマン〔岩下綾訳〕
第13章 喜び、悲しみ、恐れ……――古典期における体液の働き ジョルジュ・ヴィガレロ〔岩下綾訳〕
第14章 内面の自己監視という発明 アラン・モンタンドン〔岩下綾訳〕
第15章 神秘体験における魂の変容と情動 ソフィー・ウダール〔岩下綾訳〕
第16章 集団的感情吐露と政治的なもの クリスティアン・ジュオ〔片木智年訳〕
第17章 名誉、親密な空間から政治的なものまで エルヴェ・ドレヴィヨン〔片木智年訳〕
第18章 勇ましい心と優しい心――近代における友愛と恋愛 モーリス・ドマ〔片木智年訳〕
第19章 メランコリー イヴ・エルサン〔片木智年訳〕
第20章 法の語るもの――奪う、騙す、犯す ジョルジュ・ヴィガレロ〔片木智年訳〕
第21章 実験的感情――十七世紀フランスにおける演劇と悲劇 情動、感覚、情念 クリスティアン・ビエ〔片木智年訳〕
第22章 バロック時代における音楽の感情 ジル・カンタグレル〔林千宏訳〕
第23章 感情、情念、情動――古典主義時代の芸術理論における表現 マルシアル・ゲドロン〔林千宏訳〕
第24章 ほほ笑み コリン・ジョーンズ〔林千宏訳〕
原 注
〈監訳者解説〉感情の時代と感情の歴史 片木智年
監修者紹介・著者紹介・監訳者紹介・訳者紹介
関連情報
われわれには愛の歴史がない[…]。死の歴史も、憐憫の歴史も、残酷さの歴史もない。喜びの歴史もない。
――リュシアン・フェーヴル
■感情は人類の属性であり、人類とともに存在してきた。
■感情はあまりに明白なので、時間に無関係と思われるほどだ。さまざまな時代と場所に等しく観察され、共通した体験や一見したところ共有される反応があることを示唆している。
■感情の歴史的な多様性、濃淡、変化は何よりもまず文化と時代の反映である。感情は状況に対応し、感受性の輪郭に合致し、生活様式と存在様式を表現するし、この様式そのものが情動とその程度を方向づける個別的で特定の環境に左右される。
■感情の歴史は内面性の果てしない変化を示す。そしてこの点は強調すべきだが、感情の歴史は方法論上の明白な結果を求める。
(「総序」より)
《続刊目次》
第Ⅱ巻 啓蒙の時代から十九世紀末まで アラン・コルバン編(小倉孝誠監訳)
序 論 アラン・コルバン
Ⅰ 一七三〇年から革命後まで
第1章 感受性の強い魂の目覚め ミシェル・ドゥロン
第2章 個人の感情と天候 アラン・コルバン
第3章 自然の光景を前にして セルジュ・ブリフォー
第4章 気象と集合的情動 アヌーシュカ・ヴァザック
第5章 政治的情動――フランス革命 ギヨーム・マゾー
Ⅱ 革命後から一八八〇年代まで
第6章 死刑台を前にして――苦痛の光景から教育の舞台へ アンヌ・キャロル
第7章 「私」と魂の気圧計 ジュディット・リヨン=カーン
第8章 欲望と快楽のかたち、失望そして不安 アラン・コルバン
第9章 感じやすい魂から感情の科学的出現へ――私的領域における感情の濃密化 アニェス・ヴァルシュ
第10章 軍事的熱狂と戦争の暴力 エルヴェ・マジュレル
第11章 大型獣狩猟の時代 シルヴァン・ヴネール
第12章 賛同への熱狂――政治的感情の新形態 コリーヌ・ルゴワ
第13章 抗議の感情 エマニュエル・フュレックス
第14章 宗教的感情の刷新 ギヨーム・キュシェ
第15章 舞台芸術がもたらす新たな感情 オリヴィエ・バラ
第16章 「私の魂のうえに奏でられるヴァイオリンの弓のような」――風景を前にした個人 シャルル=フランソワ・マティス
第Ⅲ巻 十九世紀末から現代まで ジャン=ジャック・クルティーヌ編(小倉孝誠監訳)
序 論 感情の支配 ジャン=ジャック・クルティーヌ
Ⅰ 感情を考える
第1章 人類学の言説 ヤン・プランパー
第2章 科学のほうへ――心理学、生理学、神経生物学 ジャクリーヌ・カロワ、ステファニー・デュプイ
第3章 感情の資本主義 エヴァ・イルーズ、ヤアラ・ベンガー・アラルフ
第4章 怒り、共感、市民としての情熱――感情をめぐる政治生活 ニコラ・マリオ
第5章 ジェンダーと歴史――恥辱の例 ウーテ・フレーフェルト
Ⅱ 一般的な感情の生成
第6章 覚醒の時代――子供時代、家族、学校 ドミニック・オタヴィ
第7章 社会参加する――政治、事件、世代 リュディヴィーヌ・バンティニー
第8章 動物への情愛 エリック・バラテー
第9章 感情的な熱狂――驚きと失望のあいだで揺れる旅 シルヴァン・ヴネール
第10章 「荒地」――自然にたいする感情の変化 シャルル=フランソワ・マティス
Ⅲ トラウマ――極限的な感情と激しい暴力
第11章 戦争の悪夢 ステファヌ・オードワン=ルゾー
第12章 強制収容所の世界――それでもやはり情動は存在する サラ・ジェンスバーガー
第13章 民族大虐殺者は殺す時に何を感じるのか リシャール・ルシュトマン
第14章 壁と涙――亡命者、移住者、移民 ミシェル・ペラルディ
第15章 身体の崩壊――病と死を前にして アンヌ・キャロル
Ⅳ 感情の機制と情動の系譜
第16章 不安の時代における恐怖心 ジャン=ジャック・クルティーヌ
第17章 うつという症例 ピエール=アンリ・カステル
第18章 屈辱感――堕落させる、貶める、破壊する クロディーヌ・アロッシュ
第19章 共感、世話、同情――人道主義的な感情 バートランド・テイス
第20章 愛、誘惑、欲望 クレア・ランガマー
Ⅴ 感情のスペクタクル
第21章 芸術への愛のために ブリュノ・ナシム・アブドラール
第22章 暗闇のなかで笑い、泣き、怖がる アントワーヌ・ド・ベック
第23章 スポーツの情熱 クリスチャン・ブロンベルジェ
第24章 感情の演劇性 クリストフ・ビダン、クリストフ・トリオ
第25章 音楽を聴くこと エステバン・ビュッシュ
第26章 テレビ画面――情動の大きな実験室 オリヴィエ・モンジャン
著者紹介
【第Ⅰ巻編者】
●ジョルジュ・ヴィガレロ(Georges Vigarello)
1941年モナコ生。パリ第5大学教授、EHESS(社会科学高等研究院)局長。身体の歴史に関する多くの著作を出版。近著に『シルエット 挑戦の誕生』(スイユ社、2012年)、『自分という感覚 身体認識の歴史』(スイユ社、2014年)。アラン・コルバン、ジャン=ジャック・クルティーヌとともに監修した『身体の歴史』(全3巻、2005-6年、邦訳、2010年)の『Ⅰ 16-18世紀――ルネサンスから啓蒙時代まで』を編集。同じく『男らしさの歴史』(全3巻、2011年、邦訳、2016-17年)の『Ⅰ 男らしさの創出――古代から啓蒙時代まで』を、『感情の歴史』(全3巻、2016-17年、邦訳、2020年から刊行中)の『Ⅰ 古代から啓蒙の時代まで』(本書)を編集(いずれも藤原書店)。
【全体監修者】
●アラン・コルバン(Alain Corbin)
1936年フランス・オルヌ県生。カーン大学卒業後、歴史の教授資格取得(1959年)。リモージュのリセで教えた後、トゥールのフランソワ・ラブレー大学教授として現代史を担当(1972-1986)。1987年よりパリ第1大学(パンテオン=ソルボンヌ)教授として、モーリス・アギュロンの跡を継いで19世紀史の講座を担当。現在は同大学名誉教授。著書に『娼婦』(1978年、邦訳、1991年、新版2010年)『においの歴史』(1982年、邦訳、新評論1998年、新版1990年)『浜辺の誕生』(1988年、邦訳、1992年)『音の風景』(1994年、邦訳、1997年)『記録を残さなかった男の歴史』(1998年、邦訳、1999年)『快楽の歴史』(2008年、邦訳、2011年)など。ジャン=ジャック・クルティーヌとジョルジュ・ヴィガレロともに監修した『身体の歴史』(全3巻、2005-6年、邦訳、2010年)の『Ⅱ19世紀――フランス革命から第1次世界大戦まで』を編集。同じく『男らしさの歴史』(全3巻、2011年、邦訳、2016-17年)の『Ⅱ 男らしさの勝利――19世紀』を、『感情の歴史』(全3巻、2016-17年、邦訳、2020年から刊行中)の『Ⅱ 啓蒙の時代から19世紀末まで』(近刊予定)を編集(いずれも藤原書店)。
●ジャン=ジャック・クルティーヌ(Jean-Jacques Courtine)
1946年アルジェ(アルジェリア)生。15年間アメリカ合衆国で、とりわけカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校で教える。パリ第3大学(新ソルボンヌ)文化人類学教授を経て名誉教授。言語学・談話分析、身体の歴史人類学。著書に『政治的談話の分析』(ラルース社、1981年)『表情の歴史――16世紀から19世紀初頭まで、おのれの感情を表出し隠蔽すること』(クロディーヌ・クロッシュと共著、パイヨ/リヴァージュ社、1988年初版、1994年再版)。現在は奇形人間の見せ物について研究し、エルネスト・マルタンの『奇形の歴史』(1880年)を復刊(J・ミロン社、2002年)、また以下の著作を準備中。『奇形の黄昏――16世紀から20世紀までの学者、見物人、野次馬』(スイユ社より刊行予定)。アラン・コルバン、ジョルジュ・ヴィガレロとともに監修した『身体の歴史』(全3巻、2005-6年、邦訳、2010年)の『Ⅲ 20世紀――まなざしの変容』を編集。同じく『男らしさの歴史』(全3巻、2011年、邦訳、2016-17年)の『Ⅲ 男らしさの危機?――20-21世紀』を、『感情の歴史』(全3巻、2016-17年、邦訳、2020年から刊行中)の『Ⅲ 19世紀末から現代まで』(近刊予定)を編集(いずれも藤原書店)。
●ジョルジュ・ヴィガレロ(Georges Vigarello)→第Ⅰ巻編者を参照。
【第Ⅰ巻監訳者】
●片木智年(かたぎ・ともとし)
1960年、高知県生まれ。1989年パリ第3大学博士課程修了。文学博士(フランス文学)。慶應義塾大学教授。著書に『ペロー童話のヒロインたち』(せりか書房、1996年)、『星の王子さま学』(慶應義塾大学出版会、2005年)、『少女が知ってはいけないこと――神話とおとぎ話に描かれた〈女性〉の歴史』(PHPエディターズ・グループ、2008年)。訳書に、フィリップ・フォール『天使とはなにか』(せりか書房、1995年)、サン=テグジュペリ『夜間飛行』(PHPエディターズ・グループ、2009年)、G・ヴィガレロ編『男らしさの歴史Ⅰ 男らしさの創出――古代から啓蒙時代まで』(第Ⅴ部 4-6章担当、藤原書店、2016年)等がある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです