まえがき(井上亮)
●第1章 「空気感染」を直視せよ――ウイルス学からの提言
アメリカの世界最大の感染症対策機関(CDC)から/日本の国立感染研へ/アウトブレイクの現場とラボ/二〇〇三年のSARSで台湾へ/武漢封鎖を中国政府に決断させた/英雄・鍾南山(中華医学会会長)/ないものねだりのPCR検査推進論/理に適った検査とは?/クルーズ船で確信した空気感染/人が落下飛沫を吸い込むには、/掃除機並みの吸引力が必要/接触感染の呪縛から解放を/感染の広がりは病原体の量に依存する/上気道での増殖が多いと感染力が強い/「ファクターX」を興味本位で言うのは無意味/リスク評価をして基準を定めよ/乾燥する冬に死亡率は高くなる/正しい情報で現実的な対策を考える/理屈にあったウイルス不活化「うがい」
●第2章 「正しく恐れる」ために――「ゼロリスク」を見直す
常識から逸脱した「安全率」の弊害/立ち止まってみる理性が大切/馬鹿げている遺体の密封――罪つくりなガイドライン/非難されないためのアリバイ的行為/量的概念を欠いた「可能性」の説明/PCR検査の抑制が医療崩壊を防いだ/海外と単純に比較はできない/ツケを次世代に回すことへの無自覚/夏は重症化率が落ちる/フェイスシールドで空気感染を防げない/憂慮すべきは院内感染/ワクチン接種はそう簡単な話ではない/ゼロリスクは大人になり切れない発想/メディアはもっと勉強してほしい
●第3章 専門家の役割とは――メディアで、政策決定の場で
本物の専門家はどこに?/メディアが語らせたいストーリー/断定的な語りを疑え/ウイルスを知らない〝専門家〟/健全なる懐疑が必要/「可能性」の確率を語れ!/一人の専門家に頼る危うさ/医学、公衆衛生以外の知見も入れよ/意思決定者は恨まれる覚悟が必要/対立軸を提示しないメディア/選択肢がたくさんあるのが、豊かな社会/コロナがあらわにした社会観、人間観
●第4章 感染症の歴史に何を学ぶか
忘れ去られたことが教訓/ロックダウンは効果があるか?/ウイルスは消えず、くすぶり続ける/恐れ過ぎがもたらす犠牲/人間を殺さない方向へ変異する/立ち止まれるメカニズムを用意せよ/確率と選択肢を提示せよ/事前説明すべきワクチンの副作用/懸念されるワクチンの南北問題/反面教師となる記録を残せ/百年前とさほど変わらない人間の反応
●第5章 パンデミックと生きるために――医療を守り、生活を取り戻す
「空気感染」を認めない対策には大穴がある/行き過ぎたPCR検査は、社会の分断を招く/救いは重症化率がさほど高くないこと/「封じ込めは不可能」を前提に/冬に備えて――地域医療を守れ/マスク類に関する誤った考え方/PCRの結果の解釈と定量的な見方の必要性/社会の心のダメージを癒す/流行は何年も続く/人間らしい生活を取り戻そう
あとがき(西村秀一)
〈附〉これは変だぞ、コロナ対策
著者紹介
●西村秀一(にしむら・ひでかず)
1955年山形生まれ。国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長。専門は呼吸器系ウイルス感染症、とくにインフルエンザ。
1984年山形大学医学部医学科卒業。医学博士。山形大学医学部細菌学教室助手を経て、1994年4月から米国National Research Councilのフェローとして、米国ジョージア州アトランタにあるCenters for Disease Control and Prevention(CDC)のインフルエンザ部門で研究に従事。1996年12月に帰国後、国立感染症研究所ウイルス一部主任研究官を経て、2000年4月より現職。
訳書に、A・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ――忘れられたパンデミック〈新装版〉』(みすず書房)、R・E・ニュースタット、H・V・ファインバーグ『豚インフルエンザ事件と政策決断――1976起きなかった大流行』(時事通信出版局)、D・ゲッツ『感染爆発――見えざる敵=ウイルスに挑む〈改訂版〉』(金の星社)。また、内務省衛生局編『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録』(平凡社東洋文庫)の解説を務める。
【編者】
●井上 亮(いのうえ・まこと)
1961年大阪生まれ。日本経済新聞編集委員。1986年日本経済新聞社入社。元宮内庁長官の「富田メモ」報道で2006年度新聞協会賞を受賞。
著書に『非常時とジャーナリズム』(日本経済新聞出版社)、『焦土からの再生――戦災復興はいかに成し得たか』『天皇と葬儀――日本人の死生観』(共に新潮社)、『昭和天皇は何と戦っていたのか――『実録』で読む87年の生涯』(小学館)、『象徴天皇の旅――平成に築かれた国民との絆』(平凡社新書)など。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです