- 中村桂子 著
- [往復書簡]若松英輔―中村桂子
[解説]田中優子
[月報]今福龍太/小森陽一/佐藤勝彦/中沢新一
- 四六変上製 288頁 カラー口絵4頁
ISBN-13: 9784865783223
刊行日: 2021/8
自然を物語る天才、賢治
◎渾身の書き下ろし250枚!!
「土神ときつね」「セロ弾きのゴーシュ」「なめとこ山の熊」……宮沢賢治の物語は、“生きる”を考える生命誌に重なる。
様々な問題を抱え、転換点を迎えるこの社会が、“いのちを中心に”動いていけるように――
目次
はじめに
序章
1 自然の物語を読み解く天才
2 自然への敏感さ
第一章 風の運ぶ物語と生命誌
1 『いてふの実』――次世代へとつながる物語
2 『土神ときつね』――現代社会のひずみを映す
3 『虔十公園林』――全体として見れば皆同じ
4 『フランドン農学校の豚』――哀れすぎる物語
5 『セロ弾きのゴーシュ』――自然の中でこそ得られるもの
6 『植物医師』――農民の底力
第二章 “農”の始まりから見直さなければ
1 農業について思うこと――農業は自然と向き合っているか
2 『なめとこ山の熊』――生きものとしての人間の原点
3 『狼森と笊森、盗森』――農業をこんなふうに始めたら
4 『農民芸術概論綱要』――「芸術こそ生活」と若者に伝える
5 農民芸術について――生きることの中に芸術はある
終章 “わからない”を楽しむ
1 『グスコーブドリの伝記』――3・11の体験が求める原点
2 いちばん気にかかる言葉――わけがわからず、まるでなってない
往復書簡 すべてがわたくしの中のみんなであるように(若松英輔・中村桂子)
第一信 今こそ「生命」に触れる――若松英輔から中村桂子へ
第二信 詩の言葉が開くとき――中村桂子から若松英輔へ
第三信 「つながる」と「関わる」を見つめて――若松英輔から中村桂子へ
第四信 私は私たちの中に――中村桂子から若松英輔へ
第五信 生命への驚きと畏敬――若松英輔から中村桂子へ
第六信 日常の中の“愛づる”――中村桂子から若松英輔へ
参考文献
あとがき
解説―私自身の中にある「生命」に向かって(田中優子)
関連情報
「生命誌」は自然、とくに生きものたちの中に存在している物語を読み解こうとしているのですが、その思いで読んでいくと宮沢賢治の童話には、「そうなんですよ」と叫びたくなるものの見方や言葉がたくさんあります。賢治は明らかに自然の中から物語を引きだす天才ですから、賢治の童話の力を借りて、生命誌による自然の理解を深めていくのは楽しい作業です。
そのように賢治と話しあっていることを本にまとめようと思ったのは、今、私たちの暮らす社会は転換点にあると思うからです。人類は長い間、利便性を求めて資源やエネルギーの消費を拡大し続けてきました。けれども20世紀半ばころから、それが地球に影響を及ぼすほどの大きさになっていることが見えてきました。その一つが、地球環境問題です。
(本文より)
著者紹介
●中村桂子(なかむら・けいこ)
1936年東京生まれ。JT生命誌研究館名誉館長。理学博士。東京大学大学院生物化学科修了、江上不二夫(生化学)、渡辺格(分子生物学)らに学ぶ。国立予防衛生研究所をへて、1971年三菱化成生命科学研究所に入り(のち人間・自然研究部長)、日本における「生命科学」創出に関わる。しだいに、生物を分子の機械ととらえ、その構造と機能の解明に終始することになった生命科学に疑問をもち、ゲノムを基本に生きものの歴史と関係を読み解く新しい知「生命誌」を創出。その構想を1993年、「JT生命誌研究館」として実現、副館長(~2002年3月)、館長(~2020年3月)を務める。早稲田大学人間科学部教授、大阪大学連携大学院教授などを歴任。
著書に『生命誌の扉をひらく』(哲学書房)『「生きている」を考える』(NTT出版)『ゲノムが語る生命』『「ふつうのおんなの子」のちから』(集英社)『生命誌とは何か』(講談社)『生命科学者ノート』(岩波書店)『自己創出する生命』(ちくま学芸文庫)『絵巻とマンダラで解く生命誌』『小さき生きものたちの国で』『こどもの目をおとなの目に重ねて』(青土社)『いのち愛づる生命誌』(藤原書店)他多数。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです