- A・コルバン+J-J・クルティーヌ+G・ヴィガレロ=監修 ジャン=ジャック・クルティーヌ=編
- 小倉孝誠=監訳
- A5上製 848頁 カラー口絵24頁
ISBN-13: 9784865783261
刊行日: 2021/10
心性史を継承するアナール派の到達点!
『身体の歴史』『男らしさの歴史』に続くシリーズ三部作完結編。
無限に広がる、感情の全体史への誘い。遂に完結!
Ⅰ 感情を考える
感情を論じてきた様々な学問と言説の大枠として、社会構築主義と普遍主義の観点を示し、資本主義、政治、ジェンダーの領域における感情の歴史性を考察する。
Ⅱ 一般的な感情の生成
感情形成の場(学校や家庭、政治への参加行動)と、感情が誘発され、増幅される対象(動物、旅、自然)を問題とし、個人の内面を伝える史料を素材に、その歴史を探る。
Ⅲ トラウマ――極限的な感情と激しい暴力
戦争、強制収容所、民族虐殺、難民等の例外的、極限的状況における感情の布置を問い、今も止まぬそれらの蛮行が、人間の感情をどのように毀損してきたのかを語る。
Ⅳ 感情体制と情動の系譜
怖れ、不安、抑鬱、屈辱感、人道主義、そして愛。いずれも古くから存在する感情だが、それらを軸に、情報化された大衆社会の中にある現代人の感情体制を記述する。
Ⅴ 感情のスペクタクル
感情を遍在化するメディアや芸術装置――絵画、音楽、映画、演劇、スポーツ、テレビ等により、感情が可視化されてきた過程を、各分野の歴史と重ね合わせて論じる。
目次
総 序 アラン・コルバン+ジャン=ジャック・クルティーヌ+ジョルジュ・ヴィガレロ〔小倉孝誠訳〕
序 論――感情の支配 ジャン=ジャック・クルティーヌ〔小倉孝誠訳〕
Ⅰ 感情を考える
第1章 人類学の言説 ヤン・プランパー〔小倉孝誠訳〕
第2章 科学の領域――心理学、生理学、神経生物学 ジャクリーヌ・カロワステファニー・デュプイ〔小倉孝誠訳〕
第3章 感情資本主義 エヴァ・イロウズ〔和田光昌訳〕
第4章 憤 怒、合一そして公民としての熱情――感情と政治活動 ニコラ・マリオ〔和田光昌訳〕
第5章 ジェンダーと歴史――恥の場合 ウーテ・フレーフェルト〔和田光昌訳〕
Ⅱ 一般的な感情の生成
第6章 目覚めのとき――子ども、家族、学校 ドミニク・オタヴィ〔熊谷謙介訳〕
第7章 社会参加する――政治、事件、世代 リュディヴィーヌ・バンティニー〔高橋信良訳〕
第8章 動物への情愛 エリック・バラテー〔高橋信良訳〕
第9章 感情的な熱狂――驚きと失望のあいだで揺れる旅 シルヴァン・ヴネール〔高橋信良訳〕
第10章 「荒地」――自然との共感の変容 シャルル=フランソワ・マティス〔岑村傑訳〕
Ⅲ トラウマ――極限的な感情と激しい暴力
第11章 戦争のアポカリプス ステファヌ・オードワン=ルゾー〔岑村傑訳〕
第12章 強制収容所の世界――それでもなお情動が サラ・ジャンズビュルジェ〔岑村傑訳〕
第13章 ジェノサイド実行者は殺害時に何を感じているのか リシャール・レクトマン〔有田英也訳〕
第14章 壁と涙――難民、国外亡命者、移民 ミシェル・ペラルディ〔有田英也訳〕
第15章 身体潰走――病と死に向かいあって アンヌ・キャロル〔有田英也訳〕
Ⅳ 感情体制と情動の系譜
第16章 不安の時代の「怖れ」 ジャン=ジャック・クルティーヌ〔熊谷謙介訳〕
第17章 抑鬱という症例 ピエール=アンリ・カステル〔熊谷謙介訳〕
第18章 屈辱感――貶す、蔑む、引きずり落とす クロディーヌ・アロシュ〔小嶋竜寿訳〕
第19章 感情移入・ケア・共感――人道的な感情 ベルトラン・テート〔小嶋竜寿訳〕
第20章 恋愛・誘惑・欲望 クレア・ランガマー〔小嶋竜寿訳〕
Ⅴ 感情のスペクタクル
第21章 芸術への愛ゆえに ブルーノ・ナッシム・アブドラール〔下澤和義訳〕
第22章 暗闇で笑い、泣き、怖がること アントワーヌ・ド・ベック〔下澤和義訳〕
第23章 スポーツ的情熱 クリスティアン・ブロンベルジェ〔下澤和義訳〕
第24章 感情の演劇性 クリストフ・ビダンクリストフ・トリオ〔大嶌健太郎訳〕
第25章 音楽聴取 エステバン・ビュシュ〔大嶌健太郎訳〕
第26章 画面、あるいは情動の巨大実験室 オリヴィエ・モンジャン〔大嶌健太郎訳〕
原 注
〈監訳者解説〉小倉孝誠
監修者紹介・著者紹介・監訳者紹介・訳者紹介
関連情報
恐怖、喜び、嫌悪、悲しみ、怒り、驚き、恥辱、羨望、愛、共感……。わたしたちの情動世界を構成するこれらの基本的要素はどこから生じ、どのように形成され、どのように構造化され、互いに結びついているのだろうか。
本書はまず、感情を対象にしてきたさまざまな学問領域(人類学、心理学、神経科学、歴史学、経済学や政治学の世界)をつうじて、感情をめぐる思想の変貌を精査する。[…]第二に、本書は一般的な感情が社会的にどのように生産されるかという点に関心をはらう。[…]最後に本書は、現代人の感情体制を調査する。
この『感情の歴史』最終巻はいかなる意味でも結論ではなく、むしろ始まり、いざないにほかならない。わたしたちの恐怖と苦悩という暗黒大陸の歴史的理解に向けて、絶えずより深く進んでいくことへのいざない、わたしたちの喜びと快楽という無限の広がりを踏破することへのいざないである。
(ジャン=ジャック・クルティーヌ「序論」より)
《既刊目次》
第Ⅰ巻 古代から啓蒙の時代まで ジョルジュ・ヴィガレロ編(片木智年監訳)
総 序 アラン・コルバン+ジャン=ジャック・クルティーヌ+ジョルジュ・ヴィガレロ〔小倉孝誠訳〕
Ⅰ 古 代 (序) ジョルジュ・ヴィガレロ〔後平澪子訳〕
第1章 ギリシア人 モーリス・サルトル〔後平澪子訳〕
第2章 ローマ世界 アンヌ・ヴィアル=ロジェ〔後平澪子訳〕
Ⅱ 中 世 (序) ジョルジュ・ヴィガレロ〔後平澪子訳〕
第3章 ゲルマン人の時代 ブリュノ・デュメジル〔後平澪子訳〕
第4章 中世初期 バーバラ・ローゼンヴァイン〔小川直之訳〕
第5章 「心を動かす」と「心の動き」 クロード・トマセ/ジョルジュ・ヴィガレロ〔小川直之訳〕
第6章 中世における感情――理性の時代 ピロスカ・ナジ〔小川直之訳〕
第7章 感情についての日常的表現と医学的用例 クロード・トマセ〔小川直之訳〕
第8章 中世ヨーロッパにおける救済の情念 ダミヤン・ボケ〔小川直之訳〕
第9章 家族と感情的関係 ディディエ・レッツ〔片木智年訳〕
第10章 14世紀から15世紀における宮廷人の政治的感情 ローラン・スマッジュ〔小川直之訳〕
Ⅲ 近 代 (序) ジョルジュ・ヴィガレロ〔岩下綾訳〕
第11章 「感情」という言葉の出現 ジョルジュ・ヴィガレロ〔岩下綾訳〕
第12章 ルネサンスにおける感情の修辞学――モンテーニュの例 ローレンス・クリツマン〔岩下綾訳〕
第13章 喜び、悲しみ、恐れ……――古典期における体液の働き ジョルジュ・ヴィガレロ〔岩下綾訳〕
第14章 内面の自己監視という発明 アラン・モンタンドン〔岩下綾訳〕
第15章 神秘体験における魂の変容と情動 ソフィー・ウダール〔岩下綾訳〕
第16章 集団的感情吐露と政治的なもの クリスティアン・ジュオ〔片木智年訳〕
第17章 名誉、親密な空間から政治的なものまで エルヴェ・ドレヴィヨン〔片木智年訳〕
第18章 勇ましい心と優しい心――近代における友愛と恋愛 モーリス・ドマ〔片木智年訳〕
第19章 メランコリー イヴ・エルサン〔片木智年訳〕
第20章 法の語るもの――奪う、騙す、犯す ジョルジュ・ヴィガレロ〔片木智年訳〕
第21章 実験的感情――17世紀フランスにおける演劇と悲劇 情動、感覚、情念 クリスティアン・ビエ〔片木智年訳〕
第22章 バロック時代における音楽の感情 ジル・カンタグレル〔林千宏訳〕
第23章 感情、情念、情動――古典主義時代の芸術理論における表現 マルシアル・ゲドロン〔林千宏訳〕
第24章 ほほ笑み コリン・ジョーンズ〔林千宏訳〕
原 注
〈監訳者解説〉感情の時代と感情の歴史 片木智年
監修者紹介・著者紹介・監訳者紹介・訳者紹介
第Ⅱ巻 啓蒙の時代から19世紀末まで アラン・コルバン編(小倉孝誠監訳)
総 序 アラン・コルバン+ジャン=ジャック・クルティーヌ+ジョルジュ・ヴィガレロ〔小倉孝誠訳〕
序 論 アラン・コルバン〔小倉孝誠訳〕
Ⅰ 1730年から革命後まで
第1章 感受性の強い魂の目覚 ミシェル・ドゥロン〔井上櫻子訳〕
第2章 個人の感情と天候 アラン・コルバン〔小倉孝誠訳〕
第3章 自然の光景を前にして セルジュ・ブリフォー〔小嶋竜寿訳〕
第4章 気象と集合的感情 アヌーシュカ・ヴァザック〔越森彦訳〕
第5章 政治的感情――フランス革命 ギヨーム・マゾー〔越森彦訳〕
Ⅱ 革命後から1880年代まで
第6章 死刑台を前にして――苦痛の光景から教育の舞台へ アンヌ・キャロル〔五味田泰訳〕
第7章 「私」と魂の気圧計 ジュディット・リヨン=カーン〔小倉孝誠訳〕
第8章 欲望と快楽のかたち、失望そして不安 アラン・コルバン〔小倉孝誠訳〕
第9章 感じやすい魂から感情の科学的出現へ アニェス・ヴァルシュ〔村田京子訳〕
第10章 軍事的熱狂と戦争の暴力 エルヴェ・マジュレル〔五味田泰訳〕
第11章 大型獣狩猟の時代 シルヴァン・ヴネール〔築山和也訳〕
第12章 賛同への熱狂――政治的感情の新形態 コリーヌ・ルゴワ〔築山和也訳〕
第13章 抗議の感情 エマニュエル・フュレックス〔築山和也訳〕
第14章 宗教的感情の刷新 ギヨーム・キュシェ〔村田京子訳〕
第15章 舞台芸術がもたらす新たな感情 オリヴィエ・バラ〔坂本さやか訳〕
第16章 私の魂のうえに奏でられるヴァイオリンの弓のような
――風景を前にした個人 シャルル=フランソワ・マティス〔坂本さやか訳〕
原 注
〈監訳者解説〉小倉孝誠
監修者紹介・著者紹介・監訳者紹介・訳者紹介
著者紹介
【第Ⅲ巻編者】
●ジャン=ジャック・クルティーヌ(Jean-Jacques Courtine)
1946年アルジェ(アルジェリア)生。15年間アメリカ合衆国で、とりわけサンタ・バーバラのカリフォルニア大学で教える。パリ第3大学(新ソルボンヌ)文化人類学教授を経て名誉教授。言語学・談話分析、身体の歴史人類学。著書に『政治的談話の分析』(ラルース社、1981年)『表情の歴史――16世紀から19世紀初頭まで、おのれの感情を表出し隠蔽すること』(クロディーヌ・クロッシュと共著、パイヨ/リヴァージュ社、1988年初版、1994年再版)。現在は奇形人間の見せ物について研究し、エルネスト・マルタンの『奇形の歴史』(1880年)を復刊(J・ミロン社、2002年)、また以下の著作を準備中。『奇形の黄昏――16世紀から20世紀までの学者、見物人、野次馬』(スイユ社より刊行予定)。アラン・コルバン、ジョルジュ・ヴィガレロとともに監修した『身体の歴史』(全3巻、2005年、邦訳2010年)のうち『Ⅲ――20世紀 まなざしの変容』(藤原書店)を編集。同じ監修者で刊行された『男らしさの歴史』(全3巻、2011年、邦訳2016-17年)のうち『Ⅲ――男らしさの危機? 20-21世紀』(藤原書店)を編集。
【全体監修者】
●アラン・コルバン(Alain Corbin)
1936年フランス・オルヌ県生。カーン大学卒業後、歴史の教授資格取得(1959年)。リモージュのリセで教えた後、トゥールのフランソワ・ラブレー大学教授として現代史を担当(1972-1986)。1987年よりパリ第1大学(パンテオン=ソルボンヌ)教授として、モーリス・アギュロンの跡を継いで19世紀史の講座を担当。現在は同大学名誉教授。著書に『娼婦』(1978年、邦訳1991年、新版2010年)『においの歴史』(1982年、邦訳、新評論1998年、新版1990年)『浜辺の誕生』(1988年、邦訳、1992年)『音の風景』(1994年、邦訳1997年)『記録を残さなかった男の歴史』(1998年、邦訳、1999年)『快楽の歴史』(2008年、邦訳2011年)『英雄はいかに作られてきたか――フランスの歴史からみる』(2011年、邦訳2014年)『知識欲の誕生――ある小さな村の講演会 1895-96』(2011年、邦訳2014年)『処女崇拝の系譜』(2014年、邦訳2018年)『静寂と沈黙の歴史――ルネサンスから現代まで』(2016年、邦訳2018年)など(いずれも藤原書店)。ジャン=ジャック・クルティーヌとジョルジュ・ヴィガレロとともに監修した『身体の歴史』(全3巻、2005年、邦訳2010年)のうち『Ⅱ――19世紀 フランス革命から第1次世界大戦まで』(藤原書店)を編集。同じ監修者で刊行された『男らしさの歴史』(全3巻、2011年、邦訳2016-17年)のうち『Ⅱ――男らしさの勝利 19世紀』(藤原書店)を編集。以上二つのシリーズに続く本シリーズ『感情の歴史』(全3巻、2016-17年)では『Ⅱ――啓蒙の時代から19世紀末まで』(2020年、藤原書店)を編集。
●ジョルジュ・ヴィガレロ(Georges Vigarello)
EHESS(社会科学高等研究院)研究指導員、フランス大学学士院名誉会員。身体の歴史に関する多くの著作を出版。近著に『シルエット――挑戦の誕生』(2012年)、『自分という感覚――身体認識の歴史』(2014年)、『衣装――中世から今日に至る文化史』(2017年)、『疲労の歴史――中世から現代まで』(2020年、以上いずれもスイユ社)がある。アラン・コルバンとジャン=ジャック・クルティーヌとともに監修した『身体の歴史』(全3巻、スイユ社、2005年。邦訳2010年)のうち『Ⅰ――16-18世紀 ルネサンスから啓蒙時代まで』(藤原書店)を編集。同じ監修者で刊行された『男らしさの歴史』(全3巻、2011年。邦訳2016-17年)のうち『Ⅰ――男らしさの創出 古代から啓蒙時代まで』、藤原書店、2016年)を編集。以上二つのシリーズに続く本シリーズ『感情の歴史』(全3巻、2016-17年)では『Ⅰ――古代から啓蒙の時代まで』(2020年、藤原書店)を編集。
●ジャン=ジャック・クルティーヌ(Jean-Jacques Courtine)→第Ⅲ巻編者を参照
【第Ⅲ巻監訳者】
●小倉孝誠(おぐら・こうせい)
1956年、青森県生まれ。パリ第4大学文学博士、1988年東京大学博士課程中退、1995年渋沢クローデル賞受賞、慶應義塾大学教授。2011年『身体の歴史』の監訳で日本翻訳出版文化賞受賞。著書に『「感情教育」――歴史・パリ・恋愛』(みすず書房、2005年)、『身体の文化史――病・官能・感覚』(中央公論新社、2006年)、『恋するフランス文学』(慶應義塾大学出版会、2012年)、『革命と反動の図像学――1848年、メディアと風景』(白水社、2014年)、『ゾラと近代フランス――歴史から物語へ』(白水社、2017年)、『逸脱の文化史――近代の〈女らしさ〉と〈男らしさ〉』(慶應義塾大学出版会、2019年)、『歴史をどう語るか――近現代フランス,文学と歴史の対話』(法政大学出版局、2021年)他多数。訳書は、アラン・コルバンの編著書を多数翻訳しているほか、ユゴー、バルザック、ゾラ等の小説の翻訳も多数手がけている。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです