- 楠木賢道 著
- 四六上製 384頁 口絵4頁
ISBN-13: 9784865783698
刊行日: 2022/11
人は一代にして成らず!
森繁久彌の父祖たちの事績を辿り、“江戸”に由来し、後藤新平に連なる異貌の精神史を活写した意欲作。
目次
序
森繁家他関連系図
第一部 森繁久彌小伝――“昭和の名優”誕生の精神史
第1章 生い立ち
第2章 青春の挫折
第3章 新天地 「満洲」 での勇躍
第4章 亡国の民と究極の自治
第5章 迷走する引揚者の生活からスターダムへ
第二部 森繁久彌の祖父とその兄弟が生きた幕末・明治
第6章 曾祖父・松本治右衛門 男子を全て養子に出す
第7章 大伯父・楠山孝一郎 人なつっこい長兄
第8章 祖父・森泰次郎 徳川の世の幕引きをした陰の功労者
第9章 大叔父・成島柳北 江戸の儒者・文人、明治のジャーナリスト
第三部 成島柳北と後藤新平をつなぐ二人の銀行家
第10章 安田善次郎 安田金融財閥の創業者
第11章 原田二郎 復活した銀行家
第四部 父たちが生きた時代と後藤新平
第12章 義伯父・森明善 草創期の鉄道技師
第13章 実父・菅沼達吉 第五回内国勧業博覧会開催の功労者
第14章 叔父・松本安正 後藤新平と原田二郎の交流を取り次いだ法律家
第15章 岳父・野村楢次 台湾総督府のノンキャリトップ
おわりに
注/参考文献リスト
本書関連年譜/主要人名索引
関連情報
□かつて日本には、広範な芸域を持ち、第二次世界大戦後のラジオ、テレビ、映画、舞台に偉大な足跡を残した森繁久彌という稀有の大型俳優がいた。
□一般には、戦前に満洲電信電話株式会社のラジオ放送アナウンサーとして、新京に赴任し勤務した「満洲体験」と、敗者・亡国の民として辛酸をなめた「満洲からの引揚体験」が表現者・森繁を育んだと語られることが多い。だが、希代の表現者・森繁久彌を育んだものは、それだけではなく、森繁自身の記憶をはるかに超えて、幕末にまでさかのぼる時間的な奥行きを持っていたようである。
□本書においても、森繁久彌の血脈に連なる旧幕臣、および彼らと気脈を通じた人々が、社会インフラ整備において重要な役割を果たしたことが明らかになるであろう。さらに彼らが、有能な実務担当者を求めていた政治家・後藤新平と響き合って、明治後期から昭和初期にかけて活躍していく状況を、具体的に提示したい。
□本書は、これまで光が当てられてこなかったそのような旧幕臣系の人々の物語であり、歴史書でもある。
(「序」より)
森繁久彌「私の履歴書――さすらいの唄」より
□明治維新というものは、どういうものか薩長土の側から書かれたものばかりだ。
□わからぬでもない、勤王の志士たちが主役だから無理からぬことと思うが、無血で城を明けわたした徳川方からの歴史こそ、実はもっと聞きたいし知りたいと思うは、徳川方の私だけだろうか。
□父は五歳で、徳川慶喜公の太刀持ちをしていたと伝えられる。文久に生れた父が、その身辺に起った諸事は知るべくもないが、何がなし心ひかれることだ。柳北は勝海舟と意見があわず喧嘩ばかりしていた話も語り草として聞かされたが、これも詳しく知りたい。
□柳北が遊びの哲学を説いて花柳の巷に入りびたるのは柳橋新誌に詳しいが、永井荷風や前田愛さんの書にも或る程度は見える。が、この人と父との日常のことなど、もう少し父が生きていてくれたら面白い挿話がつづれたと思って残念だ。
(『全著作〈森繁久彌コレクション〉1道――自伝』藤原書店、2019年所収)
著者紹介
●楠木賢道(くすのき・よしみち)
1961年、大分県中津市に生まれる。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科満期退学、博士(文学)。
大分県立芸術文化短期大学専任講師、筑波大学教授、吉林師範大学教授等を歴任。現在は中央民族大学特聘教授、公益財団法人東洋文庫研究員。東洋史専攻。2013年から後藤新平研究会に参加。
著書に『清初対モンゴル政策史の研究』(汲古書院、2009年)、編著に後藤新平『国家とは何か』(藤原書店、2021年)、論文に「江戸時代知識人が理解した清朝」(別冊『環』16、2009年)、「『二国会盟録』からみた志筑忠雄・安部龍平の北アジア理解――江戸時代知識人のNew Qing History?」(『社会文化史学』52、2009年)、「成島柳北を生んだ浅草・蔵前の知的ネットワーク――江戸の蔵書家松本幸彦と幕府の奧儒者成島家」(『環』59、2014年)、「後藤新平『江戸の自治制』を読む」(『環』59、2014年)、「孝端文皇后之母科爾沁大妃的収継婚及其意義初探」(『清史研究』2016-1)、「地域名称『満洲』の起源――江戸時代知識人の空間認識の展開」(別冊『環』23、2017年)、「馬場為八郎の『魯西亜来聘紀事』について」(浪川健治編『十八世紀から十九世紀へ』清文堂、2021年)等がある。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです