- ジュール・ミシュレ 著
- 大野一道 編
大野一道・翠川博之 訳
- 四六変上製 320頁
ISBN-13: 9784865783803
刊行日: 2023/2
自然史、地球史への転換点を示す、新たな世界観の誕生!
未完の重要作の初邦訳!
“すべての生きものたちの食卓”を夢見て――『フランス革命史』完成に消耗したミシュレは、1853年冬、若妻アテナイスとともに北イタリアへ赴く。そこで自然との不思議な交感を得ると同時に、その地の貧窮、飢餓を目の当たりにし、万物が交歓する、革命を越える「宴」を幻視する。
目次
編者のことば
編者はしがき
序 革命の死者たちから逃れてイタリアへ
第一部 イタリア わが再生
山々、星々、トカゲたち
スピナ宮
粗野な土地、ジェノヴァ
純粋な思考への没入――欠食と飢餓の哲学
富裕者と貧困者の戦争
死を糧とする生
追放の歴史家、ウェルギリウ
わが方法、ウェルギリウス、ヴィーコ
わが自由、ウェルギリウス、ヴィーコ
第二部 万物の宴――革命の彼方に
リヨンの二つの丘(フルヴィエールとクロワ=ルス)の対立
大革命が示した地に足がついた宴
フランスの伝統を無視した社会主義――サン゠シモンとフーリエ
キリスト教と中世
ナポレオン帝国の祝祭
民衆の魂とその宴
祝祭を! わたしたちに祝祭を与えたまえ!
母性の祝祭
フランスの二つの革命の物理的失敗と精神的遺産
ジュフロワの言葉、テブー・ホールの印象、精神的コレラ
附 録 267
❶アテナイス版『宴』(一八七九年)
目 次
序 文(全文)
結 論 万物の宴(抄訳)
❷『ミシュレ全集』版「宴 あるいは戦う教会の一体性」(一九八〇年)目次
[編者解説]ミシュレにおける『万物の宴』の位置
編者あとがき
主要人名索引
関連情報
『フランス革命史』という大作を書き終え、心身ともにくたびれ果て、病に倒れかかったとき、彼は若き妻アテナイスとともに北イタリアの地に自らの再生を求めて赴く。ウェルギリウスやヴィーコ、これらイタリアの先人たちが、ミシュレにとって終生の精神的師としてあったからである。
この北イタリアで一八五三年から五四年にかけての日々、貧しい土地と、そこに生きる貧しい人々の現実を目にして、再び民衆へと想いを馳せた。そして民衆の視点から、つまりこの世の弱者と呼ばれる者たちの視点から、世界に、ということは単に人間の歴史のみでなく、大いなる自然、宇宙の遥かなる歩みにも想いをひそめ、書きとめていったのが本作品である。
この二十一世紀にミシュレを読むというのは、我々人間が、遥かなるこの宇宙の歩みの中で、ほんの小さな一粒のような存在でありながら、大自然の中の民衆であり、民衆としての人間はあらゆる生命と通いあう大いなる存在に他ならないと再確認することになるだろう。ミシュレの中には、あらゆる生命に魂が、心が宿っている、精神活動は万物のなかにもあるといった、アニミズム的な感性があったようだ。
西洋世界の真っただ中で生まれ、フランス革命という近代の原理を肯定しながら、ミシュレはあたかも東洋世界において認められてきたような自然観、すなわち万物に魂・心といった原理があることに気づき、思索した人間だった。彼のそうした思索の先に、地球全体規模の、全人類スケールの再生(=ルネサンス)を求めることはできないだろうか? 「万物の宴を、革命の彼方に」求めることはできないだろうか?
(大野一道「編者のことば」より)
著者紹介
●ジュール・ミシュレ(Jules Michelet, 1798-1874)
ミシュレはフランス革命期,貧しい印刷業者の一人息子としてパリで誕生。「私は陽の当たらないパリの舗道に生えた雑草だ」「書物を書くようになる前に,私は書物を物質的に作っていた」(『民衆』)。少年時代は物質的にきわめて貧しかったが,孤独な中にも豊かな想像力を養い,やがて民衆への深い慈愛を備えた大歴史家へと成長してゆく。独学で教授資格(文学)を取得し,1827年にエコール・ノルマルの教師(哲学と歴史)。ヴィーコ『新しい学』に触れて歴史家になることを決意して,その自由訳『歴史哲学の原理』を出版。『世界史入門』『ローマ史』に続き,『フランス史』の執筆に着手(中世6巻,近代11巻)。1838年,コレージュ・ド・フランス教授に就任した。その後,カトリック教会を批判して『イエズス会』『司祭,女性,家族』を発表。『フランス革命史』を執筆する傍ら,二月革命(1848)では共和政を支持。しかし,ルイ=ナポレオンの台頭によってそのすべての地位を剝奪された。以後,各地を転々としながら『フランス史』(近代)の執筆を再開。同時に自然史(『鳥』『虫』『海』『山』)や『愛』『女』『魔女』『人類の聖書』に取り組んだ。晩年は,普仏戦争(1870)に抗議して『ヨーロッパを前にしたフランス』を発表。パリ・コンミューンの蜂起(1871)に触発されて『19世紀史』に取りかかりながらも心臓発作に倒れた。ミシュレの歴史は19世紀のロマン主義史学に分類されるが,現代のアナール学派(社会史,心性史)に大きな影響を与えるとともに,歴史学の枠を越えた大作家として,バルザックやユゴーとも並び称せられている。
【編・訳者】
●大野一道(おおの・かずみち)
1941年生。1967年東京大学大学院修士課程修了。中央大学名誉教授。専攻はフランス近代文学。著書に『ミシュレ伝』『「民衆」の発見――ミシュレからペギーへ』(以上,藤原書店),訳書にミシュレ『民衆』(みすず書房),同『女』『世界史入門』『学生よ』『山』『人類の聖書』『全体史の誕生』,共編訳書にミシュレ『フランス史』(全6巻),『民衆と情熱――大歴史家が遺した日記 1830-74』(全2分冊)(以上,藤原書店)他。
【訳者】
●翠川博之(みどりかわ・ひろゆき)
1968年生。東北大学大学院文学研究科博士後期課程修了。東北学院大学准教授。専攻はフランス現代文学およびフランス現代思想。論文に「サルトルの演劇理論」(『サルトル読本』法政大学出版局)「アンガジュマンの由来と射程」(『ポストコロニアル批評の諸相』東北大学出版会),共訳書にミシュレ『フランス史V』『民衆と情熱――大歴史家が遺した日記 1830-74』(全2分冊)(藤原書店)他。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです