- マイケル・ホダルコフスキー 著
- 山内智恵子 訳 宮脇淳子=跋
- 四六上製 432頁
ISBN-13: 9784865783827
刊行日: 2023/3
ロシアとは何か!?
ウクライナ出身のユダヤ人歴史学者が、1900年~2000年に至る“ロシアの20世紀”を、1年ごとに丹念に追い、ロシア現代史の真実を伝える。
ロシアとは? 西洋か? 独自の存在か? プーチン大統領の「偉大なるロシア」とは? 「ルースキー」(いわゆるロシア人)と「ロシヤーニン」(ロシア人の支配下にある諸民族)で構成される多民族世界――今こそ読むべき必読書。
目次
日本の読者へ
日本の読者への自伝的覚書
序章 汝、いずこへ行き給う
第Ⅰ部 帝国は死なねばならぬ
第一章 変化と戦う専制 1900-09
ロシア文学の巨匠と新星――トルストイ、チェーホフ、ゴーリキー/燃え上がる労働運動/農民暴動/「ポグロム」――ユダヤ人への暴行と虐殺/日本との戦争/危機/皇帝の演説/チフリス銀行強盗事件/クロンシュタットのイオアン神父/ボスニア危機
第二章 戦争と革命1910-19
トルストイの死/テロリズム/レナ虐殺事件/ロマノフ朝三百周年/タンネンベルクの戦い/ツァーリグラードの夢/ラスプーチン暗殺/「専制打倒、戦争反対」/赤色テロ/コサックへの集団暴行
第Ⅱ部 権力を握ったユートピア
第三章 社会主義の遅れ 1920-29
アジアへの革命輸出――東方諸民族大会/飢饉、化学兵器、強制収容所/ソヴィエト連邦成立/民族共産主義/新経済政策(NEP)/世界革命のための幹部育成/国と民族の創造/孤児を共産主義者として育成せよ/文化革命の最初の犠牲者たち/学界、知識人、教会への攻撃
第四章 スターリンの社会主義革命 1930-39
ウラジーミル・マヤコフスキー/ソヴィエト宮殿/親を告発する子供たち/囚人労働/キーロフ暗殺事件/労働英雄/スターリン憲法/大粛清/ヒトラーとの同盟
第五章 戦争 1940-49
レオン・トロツキー/瀬戸際のモスクワ/「一歩も下がるな」/内部の敵/レニングラード包囲戦/ドイツの蹂躙/冷戦としての文化戦争/通貨改革/根なし草のコスモポリタン/原爆開発計画
第六章 スターリニズムの終わりとフルシチョフの革命 1950-59
アジアでの共産主義拡大/独裁者は正気ではない/独裁者は死んだ/核戦争軍事演習「スネジョーク」/多民族国家/スターリニズムの終わり/スプートニク/ボリス・パステルナーク/国勢調査
第七章 改革と反体制の間 1960-69
処女地開拓計画/スラヴァおじさんとベルリンの壁/ノヴォチェルカッスク虐殺事件/雪解けとその限界/フルシチョフの「引退」/ソヴィエト国家資本主義/反体制派の鎮圧/サハロフ宣言/ソヴィエトのドクター・スース
第八章 停滞 1970-79
ソルジェニーツィンのノーベル賞/ソヴィエトのボブ・ディラン/ニクソンのデタントと大穀物強盗/諸民族の友好/個人崇拝/消費者危機/反体制から亡命者へ/モスクワ連続爆破事件と弾圧/まとまらないソ連/アフガニスタン――ソ連版ヴェトナム
第九章 失楽園 1980-89
モスクワ・オリンピック/ポーランドの混乱/ブレジネフの死/ミサイル問題/鉄のカーテンの向こうのアイアン・メイデン/ウォッカ/チェルノブイリ/保健医療の惨状/保守強硬派の逆襲/終わりの始まり
第Ⅲ部 民主主義の実験
第十章 ロシア民主主義の興亡 1990-2000
ソヴィエト民族主義と民族紛争/帝国の死/もう一つの革命/憲法危機/腐敗と第一次チェチェン紛争/選挙/ロシア・ファシズム/KGBの復活/プーチン首相
〈エピローグ〉プーチン大統領
訳者あとがき
〈跋〉ホダルコフスキーさんのこと(宮脇淳子)
参考文献/図版・資料一覧/事項索引/人名索引
関連情報
ロシアの伝統的な文化とは何だろうか? 二十世紀まで、ロシアは圧倒的に農耕社会であった。識字率は西欧や日本と比べて非常に低く、都市化しておらず、聖職者の数が足りず、教会も広範囲に散らばっていたので、人々は充分なサービスが受けられなかった。
ピョートル大帝と、のちのエカテリーナ大帝の改革によって、二つの異なるロシアが生まれた。一つは、地主や都会の専門層から成る、西洋化され、教養のあるロシアであり、もう一つは、文字が読めず、虐げられた農民のロシアである。スラヴ派は後者のロシアを代表しており、これこそロシアの民族的アイデンティティの源であると主張し、西欧派は、ロシアが前進する道は西欧に近づくことだと信じていた。 (「日本の読者へ」より)
ロシア史に詳しい読者も、詳しくない読者も、何か新しくて変わったものをこの本から見つけられるだろう。エピソードの一つ一つに、ロシアの社会と文化についての洞察がある。ソ連のイデオロギー、文化、経済、反ユダヤ主義、国粋主義、政治的暴力など、何であれ特定の主題に関心のある読者は、二十世紀全体を貫く共通のテーマを見つけることができるはずだ。
私は、識字力の全国的普及、無料の医療と教育、産業と核における超大国の地位、女性解放、ナチス・ドイツに対する勝利、強大な軍事力、宇宙探査、スポーツといった、一部の人々がソ連の偉大な成果と考えるかもしれないものに大きな影を投げかける、あまり知られていない物語を語っていきたい。これらの「成果」はすべて、ソ連の社会主義計画と、それが作り出した新しい社会――常習的な嘘と暴力に基づく社会――がもたらした、とてつもない人的・社会的犠牲の影に覆われている。 (序章より)
著者紹介
●マイケル・ホダルコフスキー(Michael Khodarkovsky)
1955年、当時ソ連のウクライナ・キエフ(現キーウ)生まれのユダヤ人。同じくソ連領内のカルムィク自治共和国に出来たばかりのカルムィク大学で言語・文学・歴史を学ぶ。1978年、23歳でソ連を離れアメリカに移民。翌年、シカゴ大学大学院に入学。1987年、博士号取得。
現在、米シカゴ・ロヨラ大学教授。専門は、アジア地域・民族に対するロシアの征服と支配の歴史。シカゴ大学、ベルリン・フンボルト大学、ライプニッツ大学ハノーファー校、レーゲンスブルグ大学、北海道大学等で客員教授をつとめる。
【訳者】
●山内智恵子(やまのうち・ちえこ)
1957年東京生まれ。国際基督教大学卒業。津田塾大学博士後期課程満期退学。日本IBM株式会社東京基礎研究所を経て現在英語講師。近年は、アメリカのインテリジェンス・ヒストリー(情報史学)や日米の近現代史に関して研究し、各国の専門書の一部を邦訳する作業に従事している。
著書に『ミトロヒン文書――KGB(ソ連)・工作の近現代史』(2020年)、『インテリジェンスで読む日中戦争』(2022年、以上ワニブックス)。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです