- 杉本星子・西川祐子 編
- A5上製 344頁
ISBN-13: 9784865784138
刊行日: 2024/2
「内発的発展論」を深化させた“水俣”との決定的な出会いとは?
国際的社会学者・鶴見和子(1918-2006)が、1970年代中盤、「水俣」調査で直面した衝撃は、同時期に提唱した「内発的発展論」に何を刻みつけたのか。旧蔵書「鶴見和子文庫」をひもとくことで、内発的発展論を「共生」の思想へと深化させていった最晩年までの軌跡に光を当て、その批判的継承の糸口を探る。
目次
はじめに
鶴見和子について
Ⅰ 不知火海総合学術調査団と内発的発展論
1 不知火海総合学術調査団の「水俣」――内発的発展論に注目して(加藤千香子)
2 鶴見和子と石牟礼道子のアニミズム(杉本星子)
3 「理論」と「体験」が出会う場所――鶴見和子と石牟礼道子(鶴見太郎)
4 仏教思想から見た内発的発展論(平岡 聡)
5 鶴見和子とエリクソン(高石浩一)
6 「不知火海総合学術調査団」における「ことば」の位相――「聞き書き」の位置づけを中心に(小林康正)
〈コラム〉鶴見家とガンジー(高石浩一)
〈コラム〉二つの内発的発展論と水俣(杉本星子)
Ⅱ 萃点としての水俣
1 地域という抵抗主体――『月刊地域闘争』のなかの京都と水俣(西川祐子)
2 水俣における社会運動と障害をめぐる言説(吉村夕里)
3 戦前のチッソと植民地(佐藤 量)
〈シンポジウム1〉水俣のポリティクスとポエティクス――鶴見和子の内発的発展論の原点に立つ
水俣で教えられたこと――ジャーナリストとして、そしてアクティビストとして(アイリーン・美緒子・スミス)
ストレンジャーとしての責任――社会問題と学術研究はどう交わるべきか(黒宮一太)
〈シンポジウム2〉京都と水俣――共生という支援
京都・水俣病を告発する会の活動――運動はハーモニー(小坂勝弥)
水俣病歴史考証館と支援者の立場(永野三智)
〈コラム〉水俣甘夏ミカンの記憶(西川祐子)
〈シンポジウム3〉鶴見和子と石牟礼道子――水俣から近代を問い続ける理論と詩学
石牟礼道子の位置、鶴見和子の問い(実川悠太)
石牟礼道子さんからのおくりもの(水野良美)
〈補〉京都文教大学図書館・鶴見和子文庫について(立石尚史・大浦伸子)
あとがき
鶴見和子と水俣・関連年表(1908-2023)
関連情報
■鶴見和子(1918-2006)は、西欧をモデルとした経済発展のみを指標とする従来の近代化論を批判し、その対抗モデルの一つとして、内発的発展論を提唱した比較社会学者である。
■1995年に鶴見が脳出血で倒れる以前と病からの「回生」後で、内発的発展論は大きく変化した。倒れる前は社会運動論としての内発的発展論が前面にあり、その要件として人と自然との共生、人と人の共生、生者と死者の共生が論じられていたが、「回生」後は、日常的な身体感覚や心情と結びついた人と自然の共生の信仰としてのアニミズムが前面に出てくる。晩年の鶴見の内発的発展論は、学術的な理論であるとともにそれを超え、日常性に根ざした「共生の思想」となったということができよう。
■本書は「鶴見和子と水俣」と題してはいるが、水俣病問題そのものをテーマとするものではない。本書の目的は、「鶴見和子文庫」所蔵の文献・資料の研究を軸に、鶴見が水俣との出会いのなかで内発的発展論を育んでいった背景やその経緯を明らかにしながら、鶴見の内発的発展論を、今日どのように批判的に継承していくことができるかを考えることにある。(「はじめに」より)
編者紹介
●杉本星子(すぎもと・せいこ)
1954年生。総合研究大学院大学文化科学研究科(国立民族学博物館)地域文化学専攻博士後期課程修了。博士(文学)。京都文教大学総合社会学部教授。専攻は文化人類学、南アジア地域研究。主な著作に、『「女神の村」の民族誌――現代インドの文化資本としての家族・カースト・宗教』(2006年)、『サリー、サリー、サリー――インドファッションをフィールドワーク』(京都文教大学 文化人類学ブックレット2、2009年、共に風響社)、『共同研究 戦後の生活記録にまなぶ――鶴見和子文庫との対話・未来への通信』(西川祐子と共編、日本図書センター、2009年)、『居心地のよい「まち」づくりへの挑戦――京都南部からの発信』(三林真弓と共編、K nit-K、2023年)他。
●西川祐子(にしかわ・ゆうこ)
1937年生。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。パリ大学・大学博士。京都文教大学名誉教授。専攻は日本とフランスの近・現代文学研究、女性史、およびジェンダー論。主な著作に、『高群逸枝 森の家の巫女』(新潮社、1982年、第三文明社、1990年)、『花の妹――岸田俊子伝』(新潮社、1986年、岩波現代文庫、2019年)、『私語り樋口一葉』(リブロポート、1992年、岩波現代文庫、2011年)、『借家と持ち家の文学史――「私」のうつわの物語』(三省堂、1998年、増補版・平凡社ライブラリー、2023年)、『日記をつづるということ――国民教育装置とその逸脱』(吉川弘文館、2009年)、『古都の占領――生活史からみる京都 1945-1952』(平凡社、2017年)他。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです