●化石の夏
予感/等しければ/あるひとり/化身/染み/化石の夏/ここより遠く/ある終り/自問/虎の風景/不眠/くりごとえんえん/山/喪/猪飼野橋/果たせない旅(崖/空席/帰る)/祝福/この朝に
●失くした季節
◎夏
村/空/牙/夏/雨の奥で/蒼いテロリスト/待つまでもない八月だと言いながら/失くした季節
◎秋
旅/蒼い空の芯で/鳥語の秋/伝説異聞/かすかな伝言/二個のとうもろこし/錆びる風景/夏のあと
◎冬
こんなにも離れてしまって/一枚の葉/跳ぶ/冬の塒/空隙/あじさいの芽/人は散り、つもる/影は伸びて
◎春
この無明の刻を/帰郷/吹かれて遠く/木蓮/つながる/何時か誰かまた/四月よ、遠い日よ。/春に来なくなったものたち
●背中の地図
序詞
Ⅰ 山濤のあと
朝に/不在/網/道の理由/弔い遙か/陽炎二題(渇く/ゆらめいて八月)/呪文/渡る
Ⅱ 日は打ち過ぎて
遠い後光/エレジーの周り/また そして 春/夜汽車を待って/うすれる 日日/背後は振り返れない/馴染んで吹かれて/円筒は輝く/風の余韻
Ⅲ 禍いの青い火は燃える
またしても年は去り/それでも言祝がれる年はくるのか/風のなか/猫/入り江の小さい村で/禍いは青く燃える/窓/声が倒れる/夜の深さを 共に
●未刊詩篇
羽の行方/二月の詩/形そのままに/うすれる遠景/献詩/虚墓/笑う。/死者には時がない
●エッセイ
私のラブコール――「好きやねん・大阪」に寄せて/都市の遠近 大阪・鶴橋/「社会主義者」/さわやかに風は吹いて/「金日成」への尽きない祈り/へだたる「在日」/私の戦後・私の解放――半分の解放の日からの私/故国と在日と文学と――四十八年ぶりの韓国を訪ねて/故国のへだたり/お互いを見つめなおす契機となるよう/日本の詩への、私のラブコール/こだわって生きる/春ともなれば
あとがき
〈インタビュー〉新たな抒情をもとめて――『化石の夏』『失くした季節』『背中の地図』をめぐって
〈解説〉予兆の詩、あるいは金時鐘の「ラブコール」(鵜飼哲)
〈解題〉化石の夏/失くした季節/背中の地図ほか未完詩篇、エッセイ(細見和之)
著者紹介
●金時鐘(キム・シジョン)
1929年(旧暦1928年12月)朝鮮釜山に生まれ、元山市の祖父のもとに一時預けられる。済州島で育つ。48年の「済州島四・三事件」に関わり来日。50年頃から日本語で詩作を始める。在日朝鮮人団体の文化関係の活動に携わるが、運動の路線転換以降、組織批判を受け、組織運動から離れる。兵庫県立湊川高等学校教員(1973-88年)。大阪文学学校特別アドバイザー。詩人。2022年秋、第4回アジア文学賞(韓国光州市の国立アジア文化殿堂が主管)を受賞。
主な作品として、詩集に『地平線』(ヂンダレ発行所、1955)『日本風土記』(国文社、1957)長篇詩集『新潟』(構造社、1970)『原野の詩――集成詩集』(立風書房、1991)『化石の夏――金時鐘詩集』(海風社、1998)『金時鐘詩集選 境界の詩――猪飼野詩集/光州詩片』(藤原書店、2005)『四時詩集 失くした季節』(藤原書店、2010、第41回高見順賞)『背中の地図』(河出書房新社、2018)他。評論集に『さらされるものと さらすものと』(明治図書出版、1975)『クレメンタインの歌』(文和書房、1980)『「在日」のはざまで』(立風書房、1986、第40回毎日出版文化賞。平凡社ライブラリー、2001)他。エッセーに『草むらの時――小文集』(海風社、1997)『わが生と詩』(岩波書店、2004)『朝鮮と日本に生きる』(岩波書店、2015、大佛次郎賞)他多数。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです