坂口哲啓
四六上製 288ページ
ISBN-13: 9784894349759
刊行日: 2014/06
悲しむ者、虐げられる者への共感と愛。――ゴッホ絵画の、測り知れない深さ。
貧しく力弱き者に真底共感して、自分が着の身着のままになっても援助し、神話や聖書に形式的に題材を求めるのでなく、真の人間を描きぬいたゴッホ。
弟テオ宛の書簡を丹念に読みこみ、その苦悩と愛に満ちた内面が、力強く豊かな筆にどのように結晶しているかを読み解く、渾身の書。
現代の我々に生きる力を与える絵画は、どのような精神の深みから生まれたか。
図版多数/カラー口絵8頁
目次
はじめに――今、なぜゴッホなのか
序章 宗教的な、あまりに宗教的な――予備的考察
浄い魂/自画像のもつ宗教性/ゴッホ作品を貫く三角形
第1章 暗い青春――画家を志すまで(一八五三年三月~一八八〇年六月)
幼年時代/グーピル商会に就職/グーピル解雇/補助教員と見習い説教師/
書店員、そして牧師を目指す/伝道師となる/テオとの軋轢
第2章 画家として立つ――ブリュッセル・エッテン・ハーグ・ドレンテ
テオの援助/修業開始/エッテンに帰る/ケーへの愛/クリスマスの大喧嘩/
シーンとの出会い/民衆の顔/風景を描く/シーンとの別れ/ドレンテへ
第3章 土に生きる――ニューネン・アントウェルペン
毛むくじゃらの犬/実の父と心の父/テオに対する敵意/『機を織る人』連作/
テオとの協定/農民の顔と『馬鈴薯を食べる人びと』/百姓=画家/アントウェルペンへ
第4章 面白うてやがて悲しき……――パリ
再会/エミール・ベルナールとの出会い/タンギー親父との交流/
印象派との出会い/モンマルトル/自画像
第5章 精神の高揚と墜落――アルル・サン=レミ
空気の明るさを求めて/芸術家vs普通人/アルルの陽の下で/夜の光/
ゴーガンとフィンセント/『自画像』と『子守女』と『蝶の舞う花咲く庭の片隅』/
サン=レミ療養院で/賞賛されることの苦痛
終章 種をまきおく――オーヴェール
医師ガシェとの出会い/教会の悲しみ/フィンセントの死/種をまきおく
あとがき
参考文献/フィンセント・ファン・ゴッホ年譜/ゴッホ関連系図/
絵画作品名索引/人名索引
関連情報
●坂口哲啓(さかぐち・のりあき)
1959年生。現在、早稲田大学、明治大学ほか非常勤講師。専攻は、19世紀フランス文学。
1995年東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。パリ第8大学博士課程留学、D.E.A.取得。
訳書に、ネルヴァル『シルヴィ』(大学書林)、フェーヴル+デュビイ+コルバン『感性の歴史』(共訳、藤原書店)、プティフィス『ルイ十六世』上下(共訳、中央公論新社)他。
自分には絵を描き続けることしかない。それをやめた瞬間から、自分はこの世に存在する意味を失ってしまう。(…)多くの傑作群を目の前にしたときに、私たちを襲う深い感動。その感動はいったいどこから来るのだろうか。その理由を、私は本書を通じて解明していきたいと思う。
ゴッホはまぎれもなく画家であるが、その前に、ひとりの人間である。人間ゴッホを理解するキーワードは二つ。〈悲しみ〉と〈共感〉だ。生きることの悲しみを、彼は死の瞬間まで感じ続けた。臨終の床で、彼が弟に言った最後の言葉は「悲しみは永遠に続く」というものだった。そんな彼は、また、他者、とりわけ、社会の底辺で生きる人びとに、限りない共感を寄せる愛の人でもあった。悲しんでいる者、虐げられている者への共感と愛、これがゴッホ芸術の根底を支えている。
(本文より)