ジュール・ミシュレ
大野一道 編訳
四六変上製 320ページ
ISBN-13: 9784894349872
刊行日: 2014/09
「すべての学問は一つである」。ミシュレは、いかにしてミシュレとなりえたか?
アナール歴史学の父、ミシュレは、古典と友情の海から誕生した。万巻の書を読み精神の礎を築き、親友と真情を語り合い人間の核心を見つめたミシュレの青春時代の日記や書簡から、その稀有な精神の源に迫る。
目次
いま、なぜミシュレの青春か? 大野一道
学問の統一性についてのスピーチ 1825
少年時代の思い出――覚え書
青春日記 1820.5.4~1823.7.12(抄)
アイデア日記 1818~1829(抄)
わが読書日記 1818~1829
〈付〉ミシュレ-親友ポワンソ 往復書簡 1820(抄)
訳者あとがき 大野一道
関連情報
■最高に愛情あふれた愛しい仲間の内にあっても、しばしば自らの中に引きこもることが必要である。(…)「日記」は、精神をさまよわせないためにたいへん良いものとなる。(「青春日記」一八二〇年五月十八日)
■ぼくは過去によって未来をより良いものにしていきたい。愛した人々より先にぼくが死ぬとしたら、彼らの傍らで生きてみたい。(「少年時代の思い出」)
■学問は確かに一なるものです。言語学、文学、歴史学、物理学、数学、哲学、すべてが、です。一見もっとも離れていると見える知識も、ほんとうは互いに相通じあっています。というよりむしろ、それらは全体で一つの体系を形成しています。
■分割するのは、ただ再構成するためにだけです。全体を理解できるようになるためにだけ、細部を研究するのです。(「学問とは何か」)
●ジュール・ミシュレ(Jules Michelet, 1798-1874)
ミシュレはフランス革命の末期,パリの貧しい印刷業者の一人息子として生まれた。「私は陽の当たらないパリの舗道に生えた雑草だ」「書物を書くようになる前に,私は書物を物質的に作っていた」(『民衆』1846)。19世紀のフランスを代表する大歴史家の少年時代は物質的にはきわめて貧しかったが,両親の愛に恵まれた少年は孤独な中にも豊かな想像力を養い,やがて民衆への深い慈愛を備えた歴史家へと成長していく。独学で教授資格(文学)を取得して教師となり,1827年にはエコール・ノルマルの教師(哲学と歴史)となる。ヴィーコ『新しい学』に触れて歴史家になることを決意し,その自由訳『歴史哲学の原理』を出版。さらに『世界史序説』『ローマ史』に続き,『フランス史』の執筆に着手する(中世6巻,1833-44。近代11巻,1855-67)。1838年,コレージュ・ド・フランスの教授。しかし,カトリック教会を批判して『イエズス会』『司祭,女性,家族』を発表。さらに『フランス革命史』(1847-53)を執筆するかたわら,二月革命(1848)では共和政を支持するが,ルイ・ナポレオンによって地位を剥奪される。各地を転々としながら『フランス史』(近代)の執筆を再開。同時に自然史(『鳥』『虫』『海』『山』)や『愛』『女』『人類の聖書』にも取り組む。普仏戦争(1870)に抗議して『ヨーロッパを前にしたフランス』を発表し,パリ・コミューンの蜂起(1871)に触発されて『19世紀史』に取りかかるも心臓発作に倒れる。ミシュレの歴史は19世紀のロマン主義史学に分類されるが,現代のアナール学派(社会史,心性史)に大きな影響を与えるとともに,歴史学の枠を越えた大作家として,バルザックやユゴーとも並び称せられている。
●大野一道(おおの・かずみち)
1941年東京都生。1967年東京大学大学院修士課程修了。中央大学名誉教授。専攻は近代フランス文学。著書に『ミシュレ伝』『「民衆」の発見――ミシュレからペギーへ』,訳書にミシュレ『女』『世界史入門』『学生よ』『山』『人類の聖書』,共編訳書にミシュレ『フランス史』全6巻(以上,藤原書店)他。