- A・コルバン+J-J・クルティーヌ+G・ヴィガレロ=監修 アラン・コルバン=編
- 小倉孝誠=監訳
- A5上製 664ページ
ISBN-13: 9784865781205
刊行日: 2017/03
好評を博した『身体の歴史』(全3巻)の第2弾!
社会的・文化的につくられた「男らしさ」の最盛期の誕生から衰退を描く!
カラー口絵32頁
目次
日本の読者へ アラン・コルバン(小倉孝誠訳)
序文 アラン・コルバン/ジャン=ジャック・クルティーヌ/ジョルジュ・ヴィガレロ(小倉孝誠訳)
第Ⅱ巻序文 アラン・コルバン(小倉孝誠訳)
第Ⅰ部 自然主義をとおして見た男らしさ アラン・コルバン(小倉孝誠訳)
第Ⅱ部 男らしさの規範――教化の制度と方法
第1章 「男らしさへの旅」としての子ども時代 イヴァン・ジャブロンカ(和田光昌訳)
Ⅰ 男らしさの規範
Ⅱ 身体で覚えさせられる男らしさ
Ⅲ 性を浄化する
第2章 軍隊と男らしさの証明 ジャン=ポール・ベルトー(真野倫平訳)
Ⅰ 「ひと皮剥ける」
Ⅱ 暴力の教育
Ⅲ 身体の訓練、魂の苦痛
Ⅳ 軍人の男らしさと性
Ⅴ 男らしさと連帯精神
第Ⅲ部 男らしさを誇示する絶好の機会
第1章 決闘、そして男らしさの名誉を守ること フランソワ・ギエ(和田光昌訳)
Ⅰ 決闘の根源にある名誉
Ⅱ 対決の主役となるものたち
Ⅲ 決闘の儀式と慣習
Ⅳ 決闘の変容
第2章 性的エネルギーを示す必然性 アラン・コルバン(小倉孝誠訳)
第Ⅳ部 男らしさの表象の社会的変動
第1章 軍人の男らしさ ジャン=ポール・ベルトー(真野倫平訳)
Ⅰ 哲学者軍人と農民兵士
Ⅱ 市民兵士と有徳な軍人
Ⅲ 名誉、栄光、男らしさ
Ⅳ 兵士たちの言葉と世紀病
Ⅴ 植民地軍人の男らしさ
Ⅵ 軍人の男らしさが議論の的になる
Ⅶ 軍人の男らしさと国民の再生
第2章 労働者の男らしさ ミシェル・ピジュネ(寺田光?訳)
Ⅰ 予備調査
Ⅱ どのような男らしさか?
Ⅲ 労働における男らしさ
Ⅳ 仕事を越えて、労働者の男らしさを表現する三領域
第3章 カトリック司祭の男らしさ――確かにあるのか、疑わしいのか? ポール・エリオー(和田光昌訳)
Ⅰ 男らしさの特別な養成
Ⅱ 規範を求めて
Ⅲ 異議を唱えられる規範
Ⅳ 女―司祭?
Ⅴ 時代の要請
第4章 スポーツの挑戦と男らしさの体験 アンドレ・ローシュ(寺田光?訳)
Ⅰ 挑戦試合、貴族的風習の遺物?
Ⅱ 決闘を規制し判定する
Ⅲ 未完の男性
Ⅳ 進行中の記憶
Ⅴ 助け合い、鍛え合い、つかみ合う
Ⅵ 強い男たちのための場所
Ⅶ 退化に抗して闘う
Ⅷ 文化に挑む自然
Ⅸ 時代を制御し支配する
第Ⅴ部 男らしさを訓練する異国の舞台
第1章 旅の男らしい価値 シルヴァン・ヴネール(寺田寅彦訳)
Ⅰ 男の交通
Ⅱ 重々しい物語
Ⅲ 男になること
第2章 十八世紀終わりから第一次世界大戦までの植民地状況における男らしさ クリステル・タロー(寺田寅彦訳)
Ⅰ 男らしい植民地化――軍事征服と「活用」
Ⅱ 「現地人」の男らしさの去勢
第Ⅵ部 男らしさという重荷
第1章 男らしさの要請、不安と苦悩の源 アラン・コルバン(小倉孝誠訳)
第2章 同性愛と男らしさ レジス・ルヴナン(寺田寅彦訳)
Ⅰ 医学と同性愛――女性化と男性同性愛との混同の出現
Ⅱ 文学と同性愛――問題となる男らしさ
Ⅲ 女っぽい振舞――当局にとってのすべての同性愛文化の共通項目?
Ⅳ 同性愛者が男らしいことはありうるか? 同性愛者の発言
結論 第一次世界大戦と男らしさの歴史 ステファヌ・オードワン=ルゾー(小倉孝誠訳)
原注
監訳者解説(小倉孝誠)
関連情報
■各巻をつうじて明瞭になるのは、男らしさの規範が時代によって変遷してきたこと、男らしさという一見普遍的な価値観が、歴史をつうじて何度も「危機」にさらされ、解体の淵にまで追い込まれ、そして新たな社会と文化の基盤のうえで刷新された形で再生してきたということである。危機と再生と変貌――それが男らしさの歴史を特徴づける。
(監訳者・小倉孝誠)
■十九世紀は、男らしさの美徳が最大限に影響力をふるった時代である。
■当初は、ごく幼い頃から男子に教えこまれる規範が普及していく。勇気、さらには英雄主義、祖国のための自己犠牲、栄光の探求、挑戦は何であれ受けて立つべきだという態度が男性たちに課される。そして法体系は家族内の男の権威を強化した。
■その後、生理学者たちがこの価値体系の確立に寄与する。男というのは精力的に活動し、発展し、社会闘争に参加し、支配するよう運命づけられているのだ、と通達し、夫婦の性的交わりは激しくあるべきだと推奨する。
■卑怯者、臆病者、意気地なし、性的不能者、同性愛者はかつてないほど軽蔑の対象になる。中等学校、寄宿舎、神学校、歌謡団体が集う地下酒場、娼家、衛兵詰所、フェンシング道場、喫煙室、数多くの作業場や酒場、さらには政治集会や狩猟協会など男たちだけが集う場所が増える。これらはすべて、男らしい男の特徴を教示し、それが開花するための舞台にほかならない。至るところで、男が前面に押し出される。集団であれば、喚き散らし、酒に強いことが男らしさの共有につながる。
■十八世紀末、博物学者は男性にたいして、被造物を支配する人類の一員であることを自覚するよう命じた。「わが息子よ、男たれ!」この根本的な命令は、あらゆるものにたいする支配権を付与された『創世記』のアダムのようになれ、と暗に意味していたのである。
■十九世紀に入っても、この男らしさの束縛が男性の活動を支える。男たちはみずからの行為によって絶えず男らしさを示さなければならない。男らしさは本質的な概念である偉大さ、優越性、名誉、徳としての力、自己制御、犠牲的行為の感覚、そして自己犠牲とその価値に一体化する。領土の探検と征服、植民地化、自然支配を証明するあらゆるもの、経済発展、そうしたもののなかで男らしさが栄える。
■男らしさとは単なる個人的美徳ではなく、社会を規制し、社会に浸透してその価値観の基盤になり、世界観を構造づける。当時の人間にとって男らしさとは生物学的な与件ではなく、一連の精神的特質であり、男性はそれを身につけ、守り、証明しなければならないのだ。
(「第Ⅱ巻序文」より)
■監修者
●アラン・コルバン(Alain Corbin)
1936年フランス・オルヌ県生。カーン大学卒業後、歴史の教授資格取得(1959年)。リモージュのリセで教えた後、トゥールのフランソワ・ラブレー大学教授として現代史を担当(1972-1986)。1987年よりパリ第1(パンテオン=ソルボンヌ)大学教授として、モーリス・アギュロンの跡を継いで19世紀史の講座を担当。著書に『娼婦』『においの歴史』『浜辺の誕生』『時間・欲望・恐怖』『人喰いの村』『感性の歴史』(フェーヴル、デュビイ共著)『音の風景』『記録を残さなかった男の歴史』『感性の歴史家 アラン・コルバン』『風景と人間』『空と海』『快楽の歴史』(いずれも藤原書店刊)。叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち第2巻『Ⅱ――19世紀 フランス革命から第1次世界大戦まで』を編集(藤原書店刊)。本叢書『男らしさの歴史』(全3巻)のうち第2巻『男らしさの勝利――19世紀』(2011年)を編集。
●ジャン=ジャック・クルティーヌ(Jean-Jacques Courtine)
1946年アルジェ(アルジェリア)生。15年間アメリカ合衆国で、とりわけカリフォルニア大学サンタ・バーバラ校で教える。現在、パリ第3大学(新ソルボンヌ)文化人類学教授。言語学・スピーチ分析、身体の歴史人類学。著書に『政治スピーチの分析』(ラルッス社、1981年)『表情の歴史――16世紀から19世紀初頭まで、おのれの感情を表出し隠蔽すること』(クロディーヌ・クロッシュと共著、パイヨ/リヴァージュ社、1988年初版、1994年再販)。現在は奇形人間の見せ物について研究し、エルネスト・マルタンの『奇形の歴史』[1880年]を復刊(J・ミロン社、2002年)、また以下の著作を準備中。『奇形の黄昏――16世紀から20世紀までの学者、見物人、野次馬』(スイユ社より刊行予定)。叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち『Ⅲ――20世紀 まなざしの変容』を編集(藤原書店刊)。本叢書『男らしさの歴史』(全3巻)のうち第3巻『男らしさの危機?――20-21世紀』(2011年)を編集。
●ジョルジュ・ヴィガレロ(Georges Vigarello)
1941年モナコ生。パリ第5大学教授、社会科学高等研究院局長、フランス大学研究所所員。身体表象にかんする著作があるが、とりわけ『矯正された身体』(スイユ社、1978年)『清潔(きれい)になる「私」――身体管理の文化史』(スイユ社、1985年、〈ポワン歴史叢書〉1987年、邦訳、同文館出版、1994年)『健全と不健全――中世以前の健康と改善』(スイユ社、1993年、〈ポワン歴史叢書〉1999年)『強姦の歴史』(スイユ社、1998年、〈ポワン歴史叢書〉2000年、邦訳、作品社、1999年)『スポーツ熱』(テクスチュエル社、2000年)『古代競技からスポーツ・ショウまで』(スイユ社、2002年)『美人の歴史』(スイユ社、2004年、〈ポワン歴史叢書〉、2007年、邦訳、藤原書店、2012年)『太目の変容。肥満の歴史』(スイユ社、2010年)叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち『Ⅰ――16-18世紀 ルネサンスから啓蒙時代まで』を編集(藤原書店刊)。本叢書『男らしさの歴史』(全3巻)のうち第1巻『男らしさの創出――古代から啓蒙時代まで』(2011年)を編集。
■監訳者
●鷲見洋一(すみ・よういち)
1941年東京生。1974年慶應義塾大学文学研究科博士課程単位修得満期退学。モンペリエ大学文学博士。慶應義塾大学教授、中部大学教授を歴任し、現在は慶應義塾大学名誉教授。専門領域は、18世紀フランス文学・思想・歴史、とりわけ『百科全書』研究。著書にLe Neveu de Rameau: caprices et logiques du jeu, Librairie France Tosho, 1975、『翻訳仏文法』上・下、新装改版、ちくま学芸文庫、筑摩書房、2003年、『「百科全書」と世界図絵』(岩波書店)、2009年など。叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち『Ⅰ――16-18世紀 ルネサンスから啓蒙時代まで』を監訳(藤原書店刊)。
●小倉孝誠(おぐら・こうせい)
1956年青森生。1987年、パリ第4大学文学博士。1988年、東京大学大学院博士課程中退。慶應義塾大学教授。専門は近代フランスの文学と文化史。著書に『身体の文化史』(中央公論新社)、『犯罪者の自伝を読む』(平凡社)、『愛の情景』(中央公論新社)、『革命と反動の図像学』(白水社)など。また訳書にコルバン『音の風景』(藤原書店)、フローベール『紋切型辞典』(岩波文庫)などがある。叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち『Ⅱ――19世紀 フランス革命から第一次世界大戦まで』を監訳(藤原書店刊)
●岑村 傑(みねむら・すぐる)
1967年長野県生。1999年東京都立大学人文科学研究科博士課程単位取得退学(パリ第4大学文学博士)。慶應義塾大学文学部准教授。19世紀後半から20世紀前半のフランス文学。著書に『フランス現代作家と絵画』(共編著、水声社)。叢書『身体の歴史』(全3巻)のうち『Ⅲ――20世紀 まなざしの変容』を監訳(藤原書店刊)