- 新保祐司 著
- 四六上製 336頁
ISBN-13: 9784865783841
刊行日: 2023/4
ブラームスを通して歌う“近代への挽歌”
コロナ禍の逼塞の日々に、にわかに耳を打ったヨハネス・ブラームス(1833-97)。
ベートーヴェン以後、近代ヨーロッパが黄昏を迎える19世紀を生きたこの変奏曲の大家の、ほぼ全作品を「一日一曲」聴き続ける。
音楽の主題から、文学・思想・人間・世界・文明へと自在に「変奏」を展開し、現代への批判の視座を見出す、文芸批評の新しいかたち。
目次
まえがき
第Ⅰ部 ブラームス・ヴァリエーション
第一主題 「僕はただ物の哀れへ浸ることのいよ深きを希求するばかりだ。」(中原中也「日記」1934年、27歳)
第一の変奏 「物のあはれ」のブラームス
第二の変奏 「近代の秋」の音楽としてのブラームス
第二主題 「人類の最善は第十九世紀を以つて言尽くされたのではあるまい乎。第二十世紀に入りて世はハツキリと末世に入つたやうな感がする。」(内村鑑三「日記」1926年3月18日)
第一の変奏 「ウィトゲンシュタインはブラームスより後の音楽に耐えられなかった。」(レイ・モンク『ウィトゲンシュタイン』)
第二の変奏 「知的活動の大半の領域で、二十世紀のヨーロッパは過去との無縁を誇らかに主張した。」(カール・E・ショースキー『世紀末ウィーン――政治と文化』)
第三の変奏 「シェーンベルクはレーニンであり、ベルクはスターリン、ウェーベルンはトロツキーになぞらえることができる」(セシル・グレイ『音楽の現在及び将来』)
第四の変奏 「無調音楽と十二音音楽は演奏しません。」(ブルーノ・ワルター)
第五の変奏 「サヨナラ、クレマンソー君、サヨナラ十九世紀、と言ひたくなる。」(内村鑑三「日記」1929年11月27日)
第三主題 『西洋音楽史を聴く――バロック・クラシック・ロマン派の本質』を読む
第一の変奏 「現代の芸術――美術も音楽も文学も――から頑ななまでに眼を背け、霞のかかった彼方に遠退いた古典を追い求めようとした。」(前川誠郎)
第二の変奏 「私は齢をとるにつれて、いよいよシューベルトに深い親しみを覚えるようになった。」(前川誠郎)
第三の変奏 「近代のフランスに於て、とうとう印象派が起り、次に後期印象派が起り、キュービストとなり、構成派となり未来派となり、ダダとなり、あらゆるものが次から次へと勃興した事は、一つには退屈と衰亡に際する一種の死の苦悶から湧き上つた処の大革命であつたに違ひない。」(小出楢重)
第四の変奏 「R・シュトラウスのわが建国二千六百年記念に寄せた《祝典音楽》(Op. 84)は、駄作である。」(前川誠郎)
第五の変奏 「ただ一曲この人の代表作を挙げよと言われたら、私は《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》(Op. 24)を推すに躊いはない。」(前川誠郎)
第四主題 「わが国の近代文学の青春を、永遠の若さのままで記念する双児の星座といえましょう。」(中村光夫)
第一の変奏 樋口一葉の声は「低音ながら明晰した言葉使ひ」(半井桃水)であった。
第二の変奏 「持つてゐたいレコオドはブラームスの全作品と教会音楽とシューベルトの歌曲……バッハのもの。あとはひとつもいりません。」(立原道造)
第Ⅱ部 ブラームス全曲をめぐる手記(8月2日~9月27日)
あとがき
主要参考文献/ブラームス略年譜(1833-1897)/主要人名索引
第Ⅰ部 ブラームス・ヴァリエーション
第一主題 「僕はただ物の哀れへ浸ることのいよ深きを希求するばかりだ。」(中原中也「日記」1934年、27歳)
第一の変奏 「物のあはれ」のブラームス
第二の変奏 「近代の秋」の音楽としてのブラームス
第二主題 「人類の最善は第十九世紀を以つて言尽くされたのではあるまい乎。第二十世紀に入りて世はハツキリと末世に入つたやうな感がする。」(内村鑑三「日記」1926年3月18日)
第一の変奏 「ウィトゲンシュタインはブラームスより後の音楽に耐えられなかった。」(レイ・モンク『ウィトゲンシュタイン』)
第二の変奏 「知的活動の大半の領域で、二十世紀のヨーロッパは過去との無縁を誇らかに主張した。」(カール・E・ショースキー『世紀末ウィーン――政治と文化』)
第三の変奏 「シェーンベルクはレーニンであり、ベルクはスターリン、ウェーベルンはトロツキーになぞらえることができる」(セシル・グレイ『音楽の現在及び将来』)
第四の変奏 「無調音楽と十二音音楽は演奏しません。」(ブルーノ・ワルター)
第五の変奏 「サヨナラ、クレマンソー君、サヨナラ十九世紀、と言ひたくなる。」(内村鑑三「日記」1929年11月27日)
第三主題 『西洋音楽史を聴く――バロック・クラシック・ロマン派の本質』を読む
第一の変奏 「現代の芸術――美術も音楽も文学も――から頑ななまでに眼を背け、霞のかかった彼方に遠退いた古典を追い求めようとした。」(前川誠郎)
第二の変奏 「私は齢をとるにつれて、いよいよシューベルトに深い親しみを覚えるようになった。」(前川誠郎)
第三の変奏 「近代のフランスに於て、とうとう印象派が起り、次に後期印象派が起り、キュービストとなり、構成派となり未来派となり、ダダとなり、あらゆるものが次から次へと勃興した事は、一つには退屈と衰亡に際する一種の死の苦悶から湧き上つた処の大革命であつたに違ひない。」(小出楢重)
第四の変奏 「R・シュトラウスのわが建国二千六百年記念に寄せた《祝典音楽》(Op. 84)は、駄作である。」(前川誠郎)
第五の変奏 「ただ一曲この人の代表作を挙げよと言われたら、私は《ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ》(Op. 24)を推すに躊いはない。」(前川誠郎)
第四主題 「わが国の近代文学の青春を、永遠の若さのままで記念する双児の星座といえましょう。」(中村光夫)
第一の変奏 樋口一葉の声は「低音ながら明晰した言葉使ひ」(半井桃水)であった。
第二の変奏 「持つてゐたいレコオドはブラームスの全作品と教会音楽とシューベルトの歌曲……バッハのもの。あとはひとつもいりません。」(立原道造)
第Ⅱ部 ブラームス全曲をめぐる手記(8月2日~9月27日)
あとがき
主要参考文献/ブラームス略年譜(1833-1897)/主要人名索引
関連情報
ブラームスの曲の中から、一曲を選ぶとなれば、私は、「ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 変ロ長調 作品24」を挙げる。この変奏曲(ヴァリエーション)で、私は批評について一つの開眼をしたかのような経験をしたからだ。小林秀雄は、ブラームスは批評の極点だと言った。これは、批評の奥義は、変奏だということである。ベートーヴェンの本の中でも、ベートーヴェンの一曲として「自作の主題による32の変奏曲 ハ短調 WoO80」を選んだが、私は、それほど変奏曲という形式に深い愛着を感じる。
今回、このようなヴァリエーションという批評の形式を試みたのは、この変奏というものこそ、これからの人間が歴史の上に立って思考し、創造していこうとするならば、たどるべき極めて細い一本の道であると考えているからだ。
(「まえがき」より)
今回、このようなヴァリエーションという批評の形式を試みたのは、この変奏というものこそ、これからの人間が歴史の上に立って思考し、創造していこうとするならば、たどるべき極めて細い一本の道であると考えているからだ。
(「まえがき」より)
著者紹介
●新保祐司(しんぽ・ゆうじ)
1953年生。東京大学文学部仏文科卒業。文芸批評家。
著書に,『内村鑑三』(1990年。文春学藝ライブラリー,2017年)『文藝評論』(1991年)『批評の測鉛』(1992年)『日本思想史骨』(1994年)『正統の垂直線――透谷・鑑三・近代』(1997年)『批評の時』(2001年)『信時潔』(2005年)[以上,構想社],『島木健作――義に飢ゑ渇く者』(リブロポート,1990年),『フリードリヒ 崇高のアリア』(角川学芸出版,2008年),『異形の明治』(2014年)『「海道東征」への道』(2016年)『明治の光・内村鑑三』(2017年)『「海道東征」とは何か』『義のアウトサイダー』(2018年)『詩情のスケッチ』(2019年)[以上,藤原書店],『明治頌歌――言葉による交響曲』(展転社,2017年)がある。また編著書に,『北村透谷――〈批評〉の誕生』(至文堂,2006年),『「海ゆかば」の昭和』(イプシロン出版企画,2006年),『別冊環⑱ 内村鑑三 1861-1930』(藤原書店,2011年)がある。
クラシック音楽関係の著作としては,『国のさゝやき』(2002年)『鈴二つ』(2005年)[以上,構想社],『シベリウスと宣長』(2014年)『ハリネズミの耳――音楽随想』(2015年)[以上,港の人],『ベートーヴェン 一曲一生』(藤原書店,2020年)がある。
2007年,第8回正論新風賞,2017年,第33回正論大賞を受賞。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです
1953年生。東京大学文学部仏文科卒業。文芸批評家。
著書に,『内村鑑三』(1990年。文春学藝ライブラリー,2017年)『文藝評論』(1991年)『批評の測鉛』(1992年)『日本思想史骨』(1994年)『正統の垂直線――透谷・鑑三・近代』(1997年)『批評の時』(2001年)『信時潔』(2005年)[以上,構想社],『島木健作――義に飢ゑ渇く者』(リブロポート,1990年),『フリードリヒ 崇高のアリア』(角川学芸出版,2008年),『異形の明治』(2014年)『「海道東征」への道』(2016年)『明治の光・内村鑑三』(2017年)『「海道東征」とは何か』『義のアウトサイダー』(2018年)『詩情のスケッチ』(2019年)[以上,藤原書店],『明治頌歌――言葉による交響曲』(展転社,2017年)がある。また編著書に,『北村透谷――〈批評〉の誕生』(至文堂,2006年),『「海ゆかば」の昭和』(イプシロン出版企画,2006年),『別冊環⑱ 内村鑑三 1861-1930』(藤原書店,2011年)がある。
クラシック音楽関係の著作としては,『国のさゝやき』(2002年)『鈴二つ』(2005年)[以上,構想社],『シベリウスと宣長』(2014年)『ハリネズミの耳――音楽随想』(2015年)[以上,港の人],『ベートーヴェン 一曲一生』(藤原書店,2020年)がある。
2007年,第8回正論新風賞,2017年,第33回正論大賞を受賞。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです