- 上田敏+鶴見和子 著
- A5変並製 248頁
ISBN-13: 9784865780581
刊行日: 2016/1
患者が、中心プレイヤー。医療者は、支援者である。
リハビリテーションの原点は、「人間らしく生きる権利」の回復である。“自己決定権”を中心に据えた上田敏の「目標指向的リハビリテーション」と、鶴見の内発的発展論が火花を散らし、自らが自らを切り開く新しい思想を創出する!
「あなたはもう歩けません」――脳出血で左片麻痺の診断を受けた社会学者、鶴見和子。損なわれた機能の代替と回復をひたすらの訓練によってめざすだけの従来のリハビリテーションでは、これからの人生の可能性の扉をすべて閉ざされたかに思えた時、リハビリ界の第一人者、上田敏の「目標指向的リハビリテーション」に出会い、確かな「一歩」を踏み出すと同時に、新しい可能性が次々と開けてきた!
患者一人一人がもっとも幸せになる人生の目標を医師と患者がともに設定しともにめざす、新しいリハビリテーションに取り組み、「人間らしく生きる権利」の回復というリハビリテーションの原点から障害に向き合ってきた上田敏の「目標指向的リハビリテーション」と内発的発展論が見事に呼応、自らが自らを切り開く新しい思想を創出する。それはまさに「自立した患者」のあり方を示すものである。
内発的発展論と新しいリハビリテーションの思想における「援助者」の意味を、キー・パースン論と開発独裁などを話題にしつつ議論、またリハビリテーションの地域性と内発的発展論、協業と分業、……等々、それぞれが取り組んできた理論の内実に深く切り込んで対話は展開する。
目次
新版への序
第1場 新しいリハビリテーションへ
◎鶴見さんのリハビリテーションを通して考えたこと(上田 敏)
新しいリハビリテーションとの出会い/古いリハビリは「基底還元論」/リハビリテーションは単なる機能回復訓練ではない
◎基底還元論とは(上田 敏)
第2場 ひとりずつ目標が異なる
目標指向的リハビリテーション/リンゴの皮むき事件 目標はひとりずつ異なる/レパートリーを増やす/歩くために歩くのではない/段階論的アプローチと同時並行的アプローチ/いくつもの可能性を開く
◎自分と意見のちがう子どもを育てた父親への感謝(鶴見和子)
第3場 患者学のすすめ
理想的患者は自己決定権を行使する/自己決定能力に裏づけられた自己決定権/自己決定権を育てない日本の教育/理想的患者とは?
第4場 リハビリテーションの科学モデル
患者と医者がともに変わる/評価基準の多様性/プロセス・モデル/自然科学と社会科学との接点/社会化された個人/個別性を高める
第5場 専門職――普遍的法則と個別性
専門職とは/主観的な世界/障害をプラスにして/普遍的法則と個別性を媒介する/道楽と学問――『ペリー・メイスン』から
◎専門職の倫理――依頼者の最良の利益に奉仕すること(上田 敏)
第6場 内発的発展論とリハビリテーションの思想1――指導者
内発的発展論の手本/援助と自発性/開発独裁は内発的といえるか/指導者の内発性と民衆の内発性/キー・パースン論/内発的発展論の二重の意味/モデルの多様性――明治維新の場合/明治維新以後の日本の発展の場合
第7場 内発的発展論とリハビリテーションの思想2――援助
圧倒的な強国の援助/自立と従属/自立のための援助/「強い歴史」
◎「外向型と内発型の結合型」は内発的か(鶴見和子)
第8場 内発的発展論の模式と検証
異なるものが異なるままに共存する/模式を集める/プロト理論を裏づける検証/普遍性のなかの多様性
第9場 “内発的”リハビリテーション
ナショナルとインターナショナル/目標とは本来どうあるべきか/協業と日本のタテ割社会/普遍性を高めるための個別性、多様性
あとがき(鶴見和子)
〈対談を終えて〉鶴見和子さんへのお答え(上田 敏)
関連情報
つまり障害当事者は今や、リハビリテーション(全人間的復権)の「中心プレイヤー」(専門家・家族・一般社会の支援を受けつつ、自己の「復権」を実現する存在)となったのである。
「患者は中心プレイヤー」ということが最もよくあてはまるのは鶴見和子さんであった。鶴見さんは七十七歳で左片麻痺となられてからの十年余の間に、本書を含む計三十点の著書を出版された。新聞・雑誌の記事やインタビューは数知れない。たぐいまれな、生産的な第二の人生を駆け抜けたのである。
(上田 敏「新版への序」より)
◎私、薬は自分で管理して、先生も必ず相談してから、下さるのね。このごろちゃんと薬に効能書がついてくるの。だからそれをちゃんと読んでね。患者には、医師とかリハビリテーションの療法士とか、それを選ぶ権利があるというのが、私が一番主張したいことなんです。だって患者は一つの病院に行って、一人の先生に会ったら、宿命だと思ってるの、みんな。これはだめなの。自分が選ぶのよ。
(鶴見和子)
◎じつは「患者学」という言葉をいったのは私なんです。鶴見さんは日本の現実ではいちばんいうことをきかない患者。ところが私たちリハビリテーションからいえば理想的な患者さんである。自己決定権はすべての人がもってる基本的人権ですが、自己決定能力をともなってない場合が多い。ところが鶴見さんは自己決定能力に裏づけられた自己決定権を主張しておられる。
(上田 敏)
著者紹介
1932年、福島県に生まれる。リハビリテーション医学。リハビリテーション界の第一人者。 東京大学医学部卒。東京大学医学部教授、帝京大学医学部教授を経て現在、日本社会事業大学客員教授。国際リハビリテーション医学会の理事、会長を経て名誉会員。日本障害者リハビリテーション協会の副会長を経て顧問。国際生活機能分類(ICF)日本協力センター代表。
著書に『リハビリテーションを考える』(青木書店)『目でみるリハビリテーション医学』(東京大学出版会)『リハビリテーションの思想』(医学書院)『回生を生きる』(鶴見和子・大川弥生と共著、三輪書店)『科学としてのリハビリテーション医学』(医学書院)『リハビリテーション医学大辞典』(大川弥生と共編、医歯薬出版)他多数。
●鶴見和子(つるみ・かずこ)
1918年、東京に生まれる。社会学者、比較社会学。幼少より日本舞踊(花柳流)と短歌(佐佐木信綱門下)を習う。津田英学塾を卒業後、1941年ヴァッサー大学にて哲学修士号を取得する。戦後は『思想の科学』発刊に参加。ブリティッシュ・コロンビア大学助教授をつとめたのち、1966年にプリンストン大学社会学博士号(Ph.D)を取得。1976年に水俣病調査団の一員として水俣入り、その後新たな社会理論のパラダイムを模索してゆく好機をえた。この水俣での「開眼」が、のち「内発的発展論」として結実する。上智大学外国語学部教授、同大学国際関係研究所所員(69~89年。82~84年同所長)を経て、89年定年退職。上智大学名誉教授。1995年に南方熊楠賞を受賞。
1995年12月24日、脳出血に斃れ左片麻痺となるが、半世紀ぶりに噴き出した短歌を歌集『回生』として自費出版(のち藤原書店より公刊)。1999年度朝日賞受賞。
著書に『コレクション 鶴見和子曼荼羅』(全9巻)『歌集 花道』『南方熊楠・萃点の思想』(以上、藤原書店)他多数。2001年9月、その生涯と思想を再現した初の映像作品『回生――鶴見和子の遺言』(ビデオ2巻組)を藤原書店から刊行。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです