いのちを纏う〈新版〉――色・織・きものの思想

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  • 志村ふくみ+鶴見和子 著
  • 新版序=田中優子
  • 四六上製 264頁 カラー口絵8頁
    ISBN-13: 9784865782998
    刊行日: 2021/1

「色の奥にある世界」を覗いたような気がした。
そのような力をもった言葉がここにある。――田中優子

着ることは、“いのち”をまとうことである――長年“きもの”三昧を尽してきた社会学者と、植物染料のみを使って“色”の真髄を追究してきた人間国宝の染織家。植物のいのちの顕現としての“色”の思想と、魂の依代(よりしろ)としての“きもの”の思想とが火花を散らし、失われつつある日本のきもの文化を、最高の水準で未来へと拓く道を照らす。待望の新版刊行!


目次

言葉の衝撃――新版に寄せて 田中優子

一 織ること/着ること

はじめに  ―― 展覧会の感想から

母の気に入るきものを私に織ってといわれた
「天蚕の夢」は、 天然の繭、 染めないままの天然の色。 光そのものです
一人のきもの愛好家から故郷の美術館に収蔵された志村作品
志村作品の信奉者マリアさんとの出会い
地球温暖化の影響が日本の染色にも及んできた
経糸と緯糸の出会いは、 人生の営みに似ている
朝に夕に、 自然が教えてくれたイメージ世界を織りの技術で再現する
染色とは大自然の可能性を引き出させてもらうこと
純粋ということは、 他を受けつけないことだと蘇芳に教えられた
ものは残さず、 技術だけを人間が継ぐ
大自然の妙。 同じ高野の霊木を染めても現地と仕事場では違う色が出た
正倉院の原点、 西陣の原点はオリエントに在った
きものほど自由な衣類はない。 自分の姿勢できものの形が決まる


志村ふくみの前史

染織作家への道を振り返る
文化学院との出会い。 様々な邂逅と創造への土壌づくり
二つの時に生みの両親から離れて叔父夫婦の養女となる
富本一枝さんを通して、 母が入った柳宗悦の民芸運動
木工作家の黒田辰秋氏との出会い。 染織作家志村ふくみの誕生
受賞したが故に民芸運動から破門。 自らの道をひた走る
織物は、メロディーと間でつくる。 大切なのは主題。音楽にとても似ている
染織作家になるための現実問題。「名なき仕事」は成り立たない


きものの喜び

きものの便利さ、 楽しみ方を自分なりに発見すること
海外に行くときは、 きものの方が洋服より持ち運びしやすい
老舗がなくなる一方で、 きもの文化を残そうとする人も出てきた
化学染料と植物染料では、 体や心に与える影響は根本的に異なる
若い人も、 きもの文化へのあこがれをもっている
染めの暈しは布の上に暈し、 織の暈しは糸が暈す
捨てられない小布も糸もいっぱい取っておく


二 色の思想/きものの思想

色の思想

色というものを通して、 生きる力をいただく
化学染料か植物染料か、 平織か紋織か、 迫られた選択
日々発見の毎日。 大自然の無限の変化のまだ数分の一しか人間は知らない
ゲーテの『色彩論』、 シュタイナーの 『色彩の本質』 が教えてくれたもの
ゲーテのいう 「地上のエロヒム」 =緑と、 「天上のエロヒム」 =赤
植物から色をいただいて、 と思う時に、 初めて植物は秘密を明かしてくれる
きものの手触り、肌触り。 夢の中でも色や触覚、 嗅覚も楽しめる
自然と響き合って生きていくことが大切
和妙と荒妙というのがあって、 植物染料は和妙で薬草なんです
伐り倒した植物に対しては、 弔いの気持ちが大切
色を取り出した植物はその霊魂は不滅。 織物は依代になって魂が宿る
見た目が同じだからといって、 中身も同じだというのは現代人の錯覚か傲慢
『源氏物語』 の紫の上は、 染めが一番上手だった
きものの形を、 時代に合わせてどのように作り替えていくかが課題
土地によって植物染料の発色は異なる。それは自然や風土の内発的発展ともいえる
都会はだめね。 地方からそういうものが都会に押しよせていくといいんだけど……
生命、 死、 再生。 緑が色の中のキーポイント
自分の世界をもった人間が重なり、 集まることが大きな力になる
色に対する価値観・象徴性は文化によって様々である
四季折々のなかで育まれた日本人の感性
江戸時代の色名の豊富さは、 日本人の感性のあらわれ


きものの思想

きもの文化は未来を紡ぎ、 世界を繋ぐ
きものは日本の風土から生まれた、 日本人の魂の依代
きものの着方や袖の形など、 工夫一つで行動的なスタイル
明治以降、 洋服文化へ移行し、 きものを捨てた日本人
きものというタブローの中に思い切って文様を描きたい
能装束からのヒント。 帯から紐へ、 新しいきものの形を考えたい
帯に代わって、 これからは紐の可能性と芸術性を実用的にアレンジする
きものの着方、 着崩し方。 まずは浴衣からきものに親しみなさい
帯との葛藤。 これからの時代に合ったきものを作りたい
魂の触れあい
日本人は、 世界に誇れるきもの文化を捨てて根なし草になってはならない


対談を終えて
鶴見和子
志村ふくみ


〈附〉 きもの・色彩関連用語解説 (五十音順)


関連情報

どこの国の民族衣裳もその国の人を輝かせる。魂の衣、それが民族衣裳である。私達の祖先が、祖母や母が遺したきもの、その生涯はつつましく、日本の美をおのずとそなえていた。衣、食、住、すべてに思い起こせばなつかしい香りがある。もう一度見直したい。これから生きてゆく若い人々に伝えたい。心のかぎり伝えたい。日本を見失わないで、と。――志村ふくみ

どこの国の文化でも、根は自分の風土に適合して、自分の伝統的な文化にもとづいて、人々の要求にもとづいて作られてきたものなんです。代々作ってきたものなんです。だからきものは平和と創造への道をひらく。きものは世界をつなぐ、これが私のきものに対する未来への提言です。――鶴見和子
(カバーソデから)

著者紹介

●志村ふくみ(しむら・ふくみ)
1924年生。紬織の重要無形文化財保持者(人間国宝)。57年、第4回日本伝統工芸展に初出品で入選。翌第5回展から第8回展まで、紬織着物により連続4回の特選を受賞、65年の第9回展からは特待出品者となる。86年、紫綬褒章受章。90年、紬織の優れた染織技術により国の重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定。93年、文化功労者。2015年、文化勲章受章。
著書『一色一生』(大佛次郎賞)『語りかける花』(エッセイストクラブ賞)『ちよう、はたり』『色を奏でる』(筑摩書房)『たまゆらの道』(志村洋子との共著、世界文化社)ほか多数。

●鶴見和子(つるみ・かずこ)
1918年生。上智大学名誉教授。専攻・比較社会学。66年プリンストン大学社会学博士号を取得。69年より上智大学外国語学部教授、同大学国際関係研究所員を務める(82-84年、同所長)。95年南方熊楠賞受賞。99年度朝日賞受賞。15歳より佐佐木信綱門下で短歌を学び、花柳徳太郎のもとで踊りを習う(20歳で花柳徳和子を名取り)。1995年12月24日、自宅にて脳出血に倒れ、左片麻痺となる。2006年歿。
著書に『コレクション 鶴見和子曼荼羅』(全9巻)、歌集『回生』『花道』『山姥』、『鶴見和子・対話まんだら』シリーズ、『南方熊楠・萃点の思想』『遺言〈増補新版〉』『好奇心と日本人』(以上、藤原書店)など多数。

*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです

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